やわらかい手のレビュー・感想・評価
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静かなあたたかい愛
孫の手術費用を稼ぐために、苦肉の策でとびこんだ風俗店。
しかし、彼女の手は「ゴッド・ハンド」だったのだ~^^
主人公マギー(マリアンヌ・フェイスフル)は、元ミック・ジャガーのミューズ。その往年の輝きを随所に感じさせながらしかし、ひたすら地味な主婦を演じている。季節も晩秋~冬だろうか。
英国の冬は、寒々しくみえるし、家族とも友人たちともそして社会にも、ぴったりの居場所をみつけられないといった感のある彼女にはことのほか冷たく感じられる。
そんなマギーに心の灯をともすのは、雇い主のミキだ。
彼とほんの少しづつ、心が通い合う様子はとても心地よい。枯れ木のように無彩色だったマギーの頬に紅がさし、再び女性として生まれ変わっていく、そんな感じが伝わってくる。
そしてふたりの気持ちが通い合う夜。「あなたの笑顔が好きよ」とマギーが言い、
ミキは少し間をおいてためらいながら「君の歩く姿が好きだ」と言う。
なんだか、これだけで、こころがしんとあたたかくなる。二人ともに、人生の過酷さを味わってきた者同士だから・・
こういう静かな気持ちのふれあいは、若い人には、ちょっとわかんないかもなぁ。
長い道のりを経た女優の肖像
35年振りに観るマリアンヌ・フェイスフルのおばさん演技に感動する。題材はキワモノだが、中味は立派な人間ドラマ、そしてラストは「男と女」も顔負けの恋愛映画。ゆっくりした流れの映画タッチとフェイスフル女史の足どりが合っている。日本の性風俗からヒントを得た商売が主人公を救う手段になる物語の根本は、「フルモンティ」から続く逆転人生応援のイギリス映画伝統のスタイル。真面目さとユーモアの両面が描ける表現者の大人度は高い。
僕たちは聖人じゃないから。
【あらすじ】
老年の女性マギーは、ロンドン郊外に住む未亡人である。彼女の息子トーマス夫婦にはオリーという一人息子がいるが、彼は病弱だ。息子夫婦はオリーのための治療費に、私財のほとんどを投げ打っており、経済的にも金銭的にも追い詰められていた。マギーは孫の回復を願い元気付けようと足繁く見舞いに現れるが、そんなマギーの実質的でない厚意を、トーマスの嫁は快く思っていない。オリーの容体は悪化し、家族は、手術のための多額の費用を工面する必要にせまられる。
マギーは器用な人間ではない。これまでの職歴もぱっとせず、就労も、ローンの借入もできない状態である。そんな時に見つけたのが風俗店の「接待係」の募集、それは一室の穴から出てくるものを、彼女の手で処理するという仕事だった。迷いながらも、資金繰りの必要にせまられ、また同時に彼女のやわらかな手の才能により、彼女はその店の稼ぎ頭となっていく。
風俗店のオーナーの計らいもあり、彼女は手術のための費用を息子夫婦に準備することができた。しかし、トーマスは多額のお金の出所が気がかりである。秘密の一点張りであるマギーを尾行し、そのお金が風俗店で得たお金であったことを知り、激昂し母を拒絶する。お金の受け取りを拒否し、お店での仕事をやめるよう求めた。しかし妻の説得を受けたトーマスは、母の献身的な愛の重さを認めざるをえなくなる。
オリーの手術の準備は整った。3人で共に現地に向かう手はずをとっていたが、マギーは土壇場で一緒に行くことを否定した。地元での人間関係も投げ打って、彼女が向かった先は風俗店のオーナーの元だった。
【感想】
女性の強さをまざまざと見せつけられたような気がします。そして、とても印象的だったのが、風俗店での稼ぎだということを理由にお金を受け取ろうとせず、更には母を拒絶するトーマスに対して妻が言ったセリフです。
「聖人じゃないんだから」
そうですよね、僕たちは聖人じゃない。妻はそれまで義母のことをよく思っていない節があります。オリーのお見舞いに持ってくるものは、ぬいぐるみなどの役に立たないものばかり。けれど、彼女には、どんな手段を使ってでも孫を救いたいという気持ちがあることに、その時初めて気づいた。子供のためなら死ねるっていう親の気持ちが分かった、という妻。これは普遍的なものかどうかわかりませんが、母という存在は時に、本当に合理的なものの見方をするものだと思います。そんな母性の強さが映画のテーマかなと感じました。
それからその物語とは別のラインで、マギーとミキの恋愛模様も描かれていました。これは正直、あ、そうだったの!と思ってしまいました。二人がお茶をするシーンで、彼女はオーナーの笑い方を褒めます。これは確かに、と僕も思ってしまいました。はっきりした顔立ちで、少しおどけたように笑うミキ・マノイロヴィッチ、素敵です。
そして何よりも、映画の前半と後半で全く違う人物なのではないかと思わせるくらいの演じ分けをしたマギー、マリアンナ・フェイスフル。イメージとしては、ハウルの動く城で、ソフィーは心の年齢?に左右されて若返ったり、おばあちゃんの姿になったりしますが、それをリアル版でいくような感じ、と言えるでしょうか。実際にはそんなに見た目が変わるわけではありませんが、覚悟を決めてからの彼女の姿は、孫の行く末を心配する祖母、ではなく、ひとりの強い女性としての存在感を放っていたと思います。
母のたくましさ。生きていくためには、聖も俗もないということ。そういうことを考えました。でも、孫のために体を張ったおばあちゃんは、一周回って、聖人のようです。
盛り上がりに欠けるかな
「おばあさんが孫の手術代を稼ぐために手コキ屋さんで働く話だよ」と聞いて見てみたのですが、それ以上でもそれ以下でも無く…という感じでした。
この「」内以上のことは特に無かったので特に驚きや意外性はありませんでした。
辛気臭くならず、軽いタッチで描かれていて良かったです。徐々に自分に自信を持って行く主人公は魅力的な女性でした。
彼女の存在で崇高な高みに
伝説の女優として、恋多き女として、波乱の人生を歩んで来たマリアンヌ・フェイスフル。彼女のトボトボと歩く姿。人には話せず困惑する辺りや吃驚する顔、息子に責め立てられ苦悩する姿。それら全て彼女の一挙手一投足こそが、この作品が一部分風俗産業を背景にしていながらも崇高な高みに到達する要因になっている。
本来は「あんな人の善い支配人なんか居ないだろう!」と言いたいところですが、そんな意見さえも彼女の立ち振る舞いの前では無意味に思える程でした。
尤もちゃっかりと“試し”ちゃってる訳ですけどね(笑)
郊外の退屈な生活で噂好きの似非セレブ住民と、低所得達の対比を挟む込む風刺的情景を盛り込みながら、1日の終わりは必ずフェードアウトで示すさり気ない演出は作品に独特のリズム感が出ています。
頑張ってはいるのにどうにもならずに悲しみ呉れている人。社会からはみ出されてしまった者。何よりも世の中の大多数を占める低所得層に対する愛情を感じる作品ですね。
(2007年12月17日 Bunkamura ル・シネマ2)
そんな女は雇ってないぞ
映画「やわらかい手」(サム・ガルバルスキ監督)から。
幼い孫を助けたい一心で飛び込んだ未知の世界で
新たな人生を見つける初老の女性を演じるハートフル・ドラマ。
うん、その未知の世界が、大変な世界であった。
なんと「性風俗店」、それもタイトルから想像して欲しい。
「手のひらのイリーナ」(IRINA PALM)として、大人気となるが、
本人は、自分のことを「年増でサエない中年女」と称する。
しかし、その店のオーナーは、彼女の魅力を認めながら、呟く。
「そんな女は雇ってないぞ」
(おまえは、年増でサエない中年女なんかじゃないよ)の意味を込め。
この言葉で、彼女は輝きを増していく。
彼女の人生にとって、重要なキーワードだったな・・と、
物語全体を振り返ってみても、そう感じるシーンである。
もう1つ、この台詞もインパクトがあった。
店のオーナーが、冒頭、性風俗の世界に戸惑う彼女に諭すシーン。
「客は、女の感触を求めてやってくる。わかるか?」
そう、手だけで、女の感触を伝えるのは、天性のものに違いない。
テクニックだけでは、そうはいかないことを承知で、語った。
そして、お気に入りのラストシーン、その後のシーンはなく、
お互い惹かれ合った2人の無言の「キスシーン」で終わる。
う〜ン、久しぶりに、素敵な終わり方だった。
…東京だったのか。(爆)
名画座にて。
…歳月は女を変える。(爆)
知っている人ならいざ知らず、誰がこのオバちゃんを
元・ミックジャガーの恋人で、さらには、ルパン三世の
峰不二子のモデルだと思うだろうか…^^;うっひょ~!
しかしながら、あのパンダみたいな体型である彼女が、
なんだかとっても可愛い♪おっとりと慈愛に満ちている。
苦節40年…?私生活ではいろいろあったそうだ。
だからここで描かれる貧困やセックスも、彼女にすれば
過去の過ちを振り返るような感じだったのだろうか…。
とにかく予告が面白くて面白くて、
絶対に観たかったのに、近場には来なかった作品だった。
だから、すんごく楽しみに観にいった私だったのに、
(確かに楽しい作品だけど)ただのコメディじゃなかった。
孫は瀕死の重病、家にお金はない、嫁には冷たくされる、
…なんだか冒頭から(音楽からして)陰鬱な映像ばかり。。
どよよ~んと沈んでいく感じだったのだ…(T_T)
やがて職探しに難を期したおばあちゃんがついに…!!
そうとは知らず(爆)、知っても背に腹は代えられず(涙)
その「仕事」を開始するのだ…!いや、すごい決心。。
A・バンデラス似のオーナー(!)木村佳乃似の同僚(!)に
どんどん仕込まれて?やわらかい手を駆使し始める彼女。
このあたりからだんだんと彼女がコケティッシュ(爆)に
見え始め、とはいえ周囲には秘密にしなければならない、
彼女が小さく?コソコソと逃げまくる様子には大笑い。
ただのコメディになっていないのは、こんな仕事(汗)
誰が好き好んでやるものか…!と思われた主人公が、
自分(の手)を褒めてくれたオーナーにスッと心を砕き、
同僚の解雇に胸を痛め、理解してくれない息子にも、
自分を認めてくれない嫁や友人達にも黙ったまんまで
見事にこの仕事を自分のものにしてしまう力量にある。
「イリーナ・パーム」の芸名の由来にも笑みが零れた。
事実が知れて以降、一番に理解を示してくれたのが
いままで冷たいと思われていた嫁というのもご愛嬌^^;
そこは同じ母親同士だった。息子にしろ、孫にしろ、
自分の命と引き換えにしても助けたいと思う気持ちに
まったく偽りはないというところで共感する。。。
それでも息子には…理解できないプライドの塊が。。
もうそろそろ話も終わりだな…と思ったあたりで、
突然、驚愕の事実が露呈される!?のだけれど、
笑うに笑えないその状況を、あぁ~やっぱ女は怖い!!
誰もがそう思うのではないでしょうか…(汗)
(あと一番気になったのが、佳乃ママ(爆)のその後。。)
愛する者のために性風俗で働けますか?
愛する者の手術費用を稼ぐため、性風俗サービスの世界に飛び込んだ女性の話。これだけ読むと、ある意味ありがちな話と思う。しかしこの映画は、主人公が中年女性であり、愛する者はその孫、というのが珍しい。
井筒和幸監督の映画『パッチギ!/LOVE&PEACE』には、兄の息子のため、映画のプロデューサーに体を売るというシーンが出てきた。体を売るというのは、若いから出来るのであり、孫のいるような中年女性では普通は話が成り立たない。しかし、風俗店オーナーが東京で見てきたという、手でイカせる「手コキ」のサービスという方法で、この問題をクリアさせた。客からはサービスしている女性の姿は見えないのである。
「テニスひじ」ならぬ「ペニスひじ」という職業病を経験したり、自分の息子(孫の父親)から「売春婦」とののしられたり、近所のおばちゃん達からいろいろ言われたりするという、受難に遭う。それらを乗り越えて、主人公は自分の意志を通すのだ。その姿に誰もが感動するだろう。
また、この映画では資本主義の論理がいろいろ出てくる。主人公は何の技能も持っていないため、職業安定所から門前払いを食らわせられる。主人公に「手コキ」のサービスを教えた先輩女性は、主人公が売れっ子になったせいで職を失う。また、この「手コキ」のサービス自体が、性風俗の中でも、早くて安いお手軽サービスで、資本主義的な合理主義の権化のような気がする。どれもこの映画の舞台となっているイギリスのみならず、日本やそれ以外の国でも、同じことが起こりえる。資本主義の怖さである。
性風俗という、知られざる世界に飛び込み、そこで翻弄される主人公。それをどう観るのか、多くの人(得に女性)に疑似体験してもらいたい。
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