やわらかい手
劇場公開日 2007年12月8日
解説
60年代のポップ・アイコンとして世界中を魅了したマリアンヌ・フェイスフルが38年ぶりに主演を務めた人間ドラマ。ロンドン郊外で暮らす主婦マギーは、孫の手術費を稼ぐために奔走していた。ある日“接客係募集”の貼り紙を目にした彼女は面接を受けるが、なんとそこは壁越しに手でサービスする風俗店。戸惑いながらも仕事を始めたマギーは、自分が意外な才能を持っていることに気付き……。共演に「アンダーグラウンド」のミキ・マノイロビッチ。
2006年製作/103分/R15+/イギリス・フランス・ベルギー・ドイツ・ルクセンブルク合作
原題:Irina Palm
配給:クレストインターナショナル
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2020年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
35年振りに観るマリアンヌ・フェイスフルのおばさん演技に感動する。題材はキワモノだが、中味は立派な人間ドラマ、そしてラストは「男と女」も顔負けの恋愛映画。ゆっくりした流れの映画タッチとフェイスフル女史の足どりが合っている。日本の性風俗からヒントを得た商売が主人公を救う手段になる物語の根本は、「フルモンティ」から続く逆転人生応援のイギリス映画伝統のスタイル。真面目さとユーモアの両面が描ける表現者の大人度は高い。
2020年2月16日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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【あらすじ】
老年の女性マギーは、ロンドン郊外に住む未亡人である。彼女の息子トーマス夫婦にはオリーという一人息子がいるが、彼は病弱だ。息子夫婦はオリーのための治療費に、私財のほとんどを投げ打っており、経済的にも金銭的にも追い詰められていた。マギーは孫の回復を願い元気付けようと足繁く見舞いに現れるが、そんなマギーの実質的でない厚意を、トーマスの嫁は快く思っていない。オリーの容体は悪化し、家族は、手術のための多額の費用を工面する必要にせまられる。
マギーは器用な人間ではない。これまでの職歴もぱっとせず、就労も、ローンの借入もできない状態である。そんな時に見つけたのが風俗店の「接待係」の募集、それは一室の穴から出てくるものを、彼女の手で処理するという仕事だった。迷いながらも、資金繰りの必要にせまられ、また同時に彼女のやわらかな手の才能により、彼女はその店の稼ぎ頭となっていく。
風俗店のオーナーの計らいもあり、彼女は手術のための費用を息子夫婦に準備することができた。しかし、トーマスは多額のお金の出所が気がかりである。秘密の一点張りであるマギーを尾行し、そのお金が風俗店で得たお金であったことを知り、激昂し母を拒絶する。お金の受け取りを拒否し、お店での仕事をやめるよう求めた。しかし妻の説得を受けたトーマスは、母の献身的な愛の重さを認めざるをえなくなる。
オリーの手術の準備は整った。3人で共に現地に向かう手はずをとっていたが、マギーは土壇場で一緒に行くことを否定した。地元での人間関係も投げ打って、彼女が向かった先は風俗店のオーナーの元だった。
【感想】
女性の強さをまざまざと見せつけられたような気がします。そして、とても印象的だったのが、風俗店での稼ぎだということを理由にお金を受け取ろうとせず、更には母を拒絶するトーマスに対して妻が言ったセリフです。
「聖人じゃないんだから」
そうですよね、僕たちは聖人じゃない。妻はそれまで義母のことをよく思っていない節があります。オリーのお見舞いに持ってくるものは、ぬいぐるみなどの役に立たないものばかり。けれど、彼女には、どんな手段を使ってでも孫を救いたいという気持ちがあることに、その時初めて気づいた。子供のためなら死ねるっていう親の気持ちが分かった、という妻。これは普遍的なものかどうかわかりませんが、母という存在は時に、本当に合理的なものの見方をするものだと思います。そんな母性の強さが映画のテーマかなと感じました。
それからその物語とは別のラインで、マギーとミキの恋愛模様も描かれていました。これは正直、あ、そうだったの!と思ってしまいました。二人がお茶をするシーンで、彼女はオーナーの笑い方を褒めます。これは確かに、と僕も思ってしまいました。はっきりした顔立ちで、少しおどけたように笑うミキ・マノイロヴィッチ、素敵です。
そして何よりも、映画の前半と後半で全く違う人物なのではないかと思わせるくらいの演じ分けをしたマギー、マリアンナ・フェイスフル。イメージとしては、ハウルの動く城で、ソフィーは心の年齢?に左右されて若返ったり、おばあちゃんの姿になったりしますが、それをリアル版でいくような感じ、と言えるでしょうか。実際にはそんなに見た目が変わるわけではありませんが、覚悟を決めてからの彼女の姿は、孫の行く末を心配する祖母、ではなく、ひとりの強い女性としての存在感を放っていたと思います。
母のたくましさ。生きていくためには、聖も俗もないということ。そういうことを考えました。でも、孫のために体を張ったおばあちゃんは、一周回って、聖人のようです。
2017年3月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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「おばあさんが孫の手術代を稼ぐために手コキ屋さんで働く話だよ」と聞いて見てみたのですが、それ以上でもそれ以下でも無く…という感じでした。
この「」内以上のことは特に無かったので特に驚きや意外性はありませんでした。
辛気臭くならず、軽いタッチで描かれていて良かったです。徐々に自分に自信を持って行く主人公は魅力的な女性でした。
2015年3月28日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館
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伝説の女優として、恋多き女として、波乱の人生を歩んで来たマリアンヌ・フェイスフル。彼女のトボトボと歩く姿。人には話せず困惑する辺りや吃驚する顔、息子に責め立てられ苦悩する姿。それら全て彼女の一挙手一投足こそが、この作品が一部分風俗産業を背景にしていながらも崇高な高みに到達する要因になっている。
本来は「あんな人の善い支配人なんか居ないだろう!」と言いたいところですが、そんな意見さえも彼女の立ち振る舞いの前では無意味に思える程でした。
尤もちゃっかりと“試し”ちゃってる訳ですけどね(笑)
郊外の退屈な生活で噂好きの似非セレブ住民と、低所得達の対比を挟む込む風刺的情景を盛り込みながら、1日の終わりは必ずフェードアウトで示すさり気ない演出は作品に独特のリズム感が出ています。
頑張ってはいるのにどうにもならずに悲しみ呉れている人。社会からはみ出されてしまった者。何よりも世の中の大多数を占める低所得層に対する愛情を感じる作品ですね。
(2007年12月17日 Bunkamura ル・シネマ2)
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