劇場公開日 2008年3月14日

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「希望持って生きようよって、励ましてくれる作品でした。」魔法にかけられて 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0希望持って生きようよって、励ましてくれる作品でした。

2008年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 何も知らずに客席についたディズニーアニメファンは、途中から卒倒することでしょう。なんと言っても、突如アニメ映画から現代のNYを舞台とした実写映画にとシームレスで繋がってしまうのですから。
 今まで実写映画の中に一部アニメーションが登場する作品はありました。例えば『ミスポター』でピーターラビットが動き回るなどはありました。
 けれども1本の作品の中で、アニメと実写がシームレスに結合する作品なんて、これが初めてではないでしょうか。観客は、このディズニーが仕掛けた「魔法にかけられて」しまうのです。なんたって、少々あり得ないような強引な実写でのストーリーすらみんなおとぎ話の続きのように受け流させてしまうのですから、この効果は絶大です。

 冒頭の伝統に則った手描きアニメーションは、いかにもディズニーアニメの真骨頂とも言うべき仕上がり。鮮やかな色彩で愛がすべてというおとぎの国を作り上げています。
 白馬の王子様に見初められ結婚を誓い合ったジゼルは、邪悪な魔女によって、苦しみに満ちた世界へと追放されました。
 苦しみに満ちた世界とはアメリカンドリームを体現しているというべき現世のニューヨーク市街のど真ん中というのが、何とも皮肉で意味深ですね。
 そこから突然実写になるという、とんでもない展開に。
 これまで夢と美しさと歌を売り物にしてきたディズニーアニメでしたが、ここまで来ると自虐的で、苦笑してしまいました。美しいドレスは歩くたびに雨に打たれて薄汚れていき、うら若き乙女だったのが三十路近いオールドミスに。そして心の純粋さと素敵な歌声も、イカレたKYな娘としか見てくれないのです。
 お供した動物たちも入れ替わり、集まってくるのは、ドブネズミにドバトにゴキブリたち。
 但しここまで伝統を封印して、実写の世界に自虐的になるのは、伝統を放棄したわけではなかったのです。おとぎの国の世界での恋は、いつも結論が決まっていて時として退屈してしまいます。その点実写の世界での恋は、なんとスリリングで先の読めないことばかりなんでしょう。
 一方そんな世界に迷い込んだジゼルからすれば、なんと不条理で無常な世界なんだろう。何で永遠の愛を誓って、いとも簡単に破られるだろうかとまずは両者の価値観の違いを際だたさせていきます。
 しかし、そこはディズニーのお仕事。おとぎの国のお約束ごととニューヨークの常識という相容れない世界を、「真実の愛」という最強力な魔法で見事に感動的に融合させてしまうのです。現実は夢の世界へ、夢の世界は現実へ、まるでヘーゲルの弁証法哲学を語るかのように、「真実の愛」をキーワードにものの見事に繋いでしまったのです。
 そこで描かれるラブストーリーは、おとぎ話のレベルを超えて、ホロッと泣かせる大人のディズニーと言っていいほどスパイスたっぷりなんですね。
 しかも、表現において手抜きがありません。きちんとしたミュージカルシーンもあればファンタジー、アドベンチャー、そしてラストはなんと本格実写VFXアクションシーンもあるよ!って、ディズニー映画のエンタメを本気でフル動員して描いているのです。
 さらに途中のエピソードには、これまでのディズニー映画のパロディがあらゆるところに隠されていました。
 白雪姫の魔法の鏡、毒リンゴ、シンデレアの靴などなど、誰もが知っているあのシーンが出てきて楽しくなります。きっと昔の名作もまた見たくなることでしょう。
 さて、この作品は、恋だけでなく、人生で大切なことも考えさせてくれました。
 ジゼルを家に招くロバートは、家庭争議を受け持つ弁護を担当する余り、世の中の不幸な現実ばかり直面させられて、自らの幸せすら懐疑的になっていたのです。
 口を開けば出てくる言葉は、「だけど」「だけど」の否定することばかり。そんなロバートも人を恨むことすら知らないジゼルのピュアな心に惹かれていくのです。
 現実の悲惨さが絶対ではない。どんな厳しい逆境のなかでも、それを逆転しうる大きな力が宿っているのだ。だから希望持って生きようよって、励ましてくれる作品でした。

流山の小地蔵