ディセンバー・ボーイズ : 映画評論・批評
2007年11月27日更新
2007年12月1日よりサロンパス・ルーブル丸の内ほかにてロードショー
ダニエル・ラドクリフがつっぱりながらも揺れる心を繊細に表現
大人への階段を登った「おもいでの夏」を、ノスタルジーいっぱいに描き出した思春期映画。「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフが意欲満々で取り組んだ、初の「非ハリポタ」映画である。
回想による語り口は、もろに「スタンド・バイ・ミー」風。同じくカトリック系孤児院少年たちの厳しい現実を描いた「イノセント・ボーイズ」とは違い、実に素直で牧歌的だ。まず設定が生きている。オーストラリアの田舎で育った孤児たちはこっそりタバコを吸ったりはするものの、刺激が何かも知らない。家族を渇望しながら養子縁組から落ちこぼれた彼らは、まさにイノセント。だからこそ、初めて海辺でバカンスを過ごす彼らの「見るものすべてがキラキラして見えた夏の風景」を、見る側も素直に受け取れるのだ。
やがて少年たちはある夫妻の養子の座をつかもうと、涙ぐましいレースを開始。このへんの争い方も、ほほえましく罪がない。ただ一人、年上のマップス(ダニエル)だけは、幼い弟分たちにその座を譲る分別を見せ、美少女とのアバンチュールを体験する。ダニエル君、この役には少々スネ毛濃すぎ(育ちすぎ)ではあるが、つっぱりながらも揺れる心、胸のドキドキが聞こえてきそうな初体験、そして友情を繊細に演じてよし。少年たちそれぞれの個性が話に絡めばもっとよかったとは思うのだが、真っ正面から「あの夏」への甘い感傷で胸を満たそうとするラストも、嫌いになれないなあ。
(若林ゆり)