「靴底についた血は、気になる(赦す < 懲らしめる)」ノーカントリー Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
靴底についた血は、気になる(赦す < 懲らしめる)
※2024.5.1一部追記
2007年公開。コーエン兄弟製作。
アカデミー賞8部門ノミネートされ、うち4冠(作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞)達成。
冒頭シーンからR15指定(笑)。
原題は『No Country for Old Men』、有名な詩からの引用らしいが、昭和の名作風に訳すと『年寄りたちに国はない』か。
印象的なシーンから。
ターゲットとして追い続けていた男の妻(ケリー・マクドナルド)が住む一軒の家からゆっくり出てきた殺し屋は、自分の靴底を見ようとする。
弱々しい若妻の運命が暗示され、見る側に絶望感を与えるシーンだ。
殺し屋、というより「殺人マシン」アントン・シガーを演じたハビエル・バルデムは、アカデミー助演男優賞を獲得した。
助演ではなく主演だろ、と突っ込みたくなる。
組織に雇われた殺し屋のはずだが、自分だけのディシプリンを持ち、それゆえに雇い主まで殺してしまう。
ワケがわからない。
コイントスによって殺す殺さないを決めることもある。
ワケがわからない。
つまり、サイコパスだ。
もう一人のキーキャラクター、ベトナム帰還兵ルウェリン・モスを演じたのはジョシュ・ブローリン。
荒野の真ん中で極秘裏におこなわれた麻薬取引が決裂し双方の組織がほぼ全員死んでしまう。
たまたま現場を通りがかったモスは、大金を見つけて持ち帰る。現場の様子から見て、「ヤバいカネ」なのは明白だ。
トレーラーハウスに住むモスは、妻に実家に戻るように言いつけると逃避行を始める。
ほどなく殺し屋シガーは、カネを持ち去ったのがモスだと突き止め、冷酷さを発揮しながら徐々に追い詰めていく。
追われるモスも、「金を返せば助けてくれる」パターンはないことを理解し命懸けの逃げを打つ。
殺し屋が泥棒を追いかける構図だが、銭形に追われるルパンに慣らされたわたしは、泥棒(モス)を応援してしまう。
結果としてモスは殺し屋には捕まらない。
↓
これは私の早とちりらしく、原作でもモスを殺したのはアントン・シガーとされていて、映画においても赤の他人(プールサイドにいた女性など)を容赦なく殺しているのはアントン・シガーの犯行を物語っている、と。
言われてみると、その通り。
保安官が現場に到着したとき、慌てて逃げるギャング団とすれ違うが、ギャングたちもモスが先に死体になっていたので驚いて撤収していただけだった。。。。
主役は、トミー・リー・ジョーンズ演じる老保安官エド・トム・ベル。
老保安官は、現場を見て何が起きたのか推理を巡らせ、逃げているモス、執拗に追いかけるシガーに徐々に近づいていくのだが。。。
モスを追いかけるもう一人の殺し屋、カーソン・ウェルズ(ウディ・ハレルソン)もシガーの化け物感を増幅させるのに貢献している。
麻薬天国アメリカ
銃天国アメリカ
2001年同時多発テロ以降、世界に世紀末感が漂う中、
性善説 < 性悪説
ほどほど < 徹底的
赦す < 懲らしめる
アメリカって、昔からこうだったっけ?
という老人の慨嘆が、
アメリカ人の多数を代弁したのだろうが、
日本だって同じだ。
闇バイト、トクリュウ…
いまを生きる若者が気の毒になることもある。