アメリカン・ギャングスター : 映画評論・批評
2008年1月22日更新
2008年2月1日より日劇1ほかにてロードショー
リドリー・スコットの大人の演出というしかない大作
デンゼル・ワシントンが、1960年代から70年代にハーレム・ギャングとして頭角をあらわした伝説の悪党=フランク・ルーカスを演じる。マルコムXという過激な黒人人権運動家を演じたこともあるデンゼルが同時代のギャングを演じるわけだ。思想家とギャング。ルーカスは当時アメリカが泥沼状態に陥っていたベトナム戦争を巧みに利用、驚くべき行動力をみせて、ゴールデン・トライアングルから産地直送で純度の高いヘロインを戦死した兵士の棺にしのばせて持ち込み、人気ブランド<ブルー・マジック>として売りさばく。それまでのイタリアン・マフィアの下請けから、黒人の、黒人による、黒人(破壊)のためのシステムを構築したのがルーカスだった。誉められた業種ではないが、デンゼルが演じるとどことなく優美な起業家となる。
彼を追いつめていくのが、「フレンチ・コネクション」のポパイ(ジーン・ハックマン)2代目といっていいラッセル・クロウだ。当時はギャングと警官の境目がないほど警官も腐敗していたが、その中の異端児がクロウなのである。目立たず行動がモットーでなかなか捜査網に浮かんでこなかったデンゼルがクロウの目に止まったのは女房が贈ってくれた派手なオーバーコートが原因という優しさはデンゼルあってこそ生きる。リドリー・スコットの大人の演出というしかない大作。
(滝本誠)