劇場公開日 2006年5月20日

「彷徨う若者たち」ロシアン・ドールズ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.5彷徨う若者たち

2014年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

知的

幸せ

 セドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」の続編という設定だが、別に前作を観ていなくても映画の中に入っていける。バルセロナへの留学の後、物書きになってそこそこ売れている主人公グザビエの10年後の話。
 一言でいうと、どうしようもない男になっていた。女にだらしがない。自分にとっての理想の女を求めて、出会う女ごとに寝ることを繰り返す。
 いつかどこかで理想の相手と出会うはずもないことは、グザビエは実のところ分かっている。それは、自分の母親に彼女の年齢を理由に高望みをしないように諭していることからも、うかがい知ることができるのだ。
 彼にとって、というか現代の若者にとって問題なのは、ありもしない理想なのは分かっていても、それを探し求める人生以外に生き方を知らないことなのだ。
 前作に引き続き世間知らずの馬鹿として描かれるウィリアムはロシアのバレリーナを見初めて、1年間のロシア語学習を経てサンクトペテルブルグまで会いにいく。傍から見れば衝動的、短絡的と思われる彼の行動だが、本人はこれを運命の出会いと思い定めている。ウィリアムのように思い込みの激しい性格であればこそこのような人生の選択もできるのだが、今の若者にとってはこの思い込みこそが幸せの鍵となる。しかし、この思い込みもふとした瞬間に覚めることがある。選び取ったもの以外にも様々な可能性があったかもしれない。そのことに誰もが気付かずにはいられない。ウィリアムのような単純な男ですら、他の可能性を全て捨てて、今自分が決めたロシア人との結婚に突き進むことには大きなエネルギーを必要とするのだ。
 酔ったウィリアムのそうした心情を理解しているグザビエの優しさが、揺れる船内のラストシーンでとても強い印象を残している。

佐分 利信