「追い詰められたら、だれでも主人公のような状態になるのではないかと思うと...」マシニスト sHinshInshiNさんの映画レビュー(感想・評価)
追い詰められたら、だれでも主人公のような状態になるのではないかと思うと...
365日間不眠症に悩まされる主人公。
体はやせ細り、頬がこけて、機械工として働いている先での同僚からは「お前、最近おかしいぞ」といわれる始末。
彼の日常が進むにつれて、徐々に彼を取り巻く環境が変わっていく。
人は物事に対して、自分以外の他者からの存在を受けながらも、最終的には「自分がどう世界をみているか」でしか物事を捉えることができない。
「他者の存在」を主とした他者からの影響は、自分の脳内に情報として流れ込み、その情報をどう料理するかは自身の体内で行われるからだ。
「世界のすべてが、敵だ」と思う状態は、誰かしら経験したことがあるのではなかろうか。それこそ、睡眠不足で体が疲れているときなんて主たる原因である。
主人公から見た世界の見え方がどんどん常識とは離れていき、やがて人との関わりを自ら断つ。
自分自身の世界の見え方でしか物事を判断できなくなった時の怖さをまざまざと見せつけられ、これはフィクションじゃなく現実の私たちにも起こりうることなのだと、映像から立ち上る「不気味さ」から、
「もう見るのはやめにしようか」
という思いにつながる、「停止」ボタンを押すという行為に向かわせない「何か」を感じた。
その半ば強迫観念的な主人公の行動が伝染し、
「ここまで見たのだから最後まで映画を見なきゃ」
という思いにもさせられた。暗い画面で救いようのない物語の進行の中、段々と心が沈んでいき、主人公の日常を取り巻く周囲の人々の気持ちを理解してしまう自分を「冷たい人間」と思ってしまった、そんな自分に対し
「じゃあ、僕は主人公と同じく周囲から『狂人』のように思われる人間なのか」
と自分の人間性がある種主人公と共鳴する部分があることに、背筋がゾッとした。
また、心に余裕がなくなった時に
「日常の出来事をパズルのピースのように当てはめていく」
ことが自己催眠のような形で、その人の視野がどんどん狭まってく危険性もあるのだなと思った。
これは他人事ではない、誰もが陥ることだ。
日々起こる偶然から物語を導き、そして、運命として自ら生きる指針にする。
その行為はとても素晴らしい出来事だ。
だがこれここに関しては、「物語をつくる」という人間が人間たらしめる能力が仇となる。
こうした人のすばらしい能力が吉と出るか凶と出るか。
今一度同じ人間として自らの状態と、そして周囲との距離感、良心の呵責を抱くような出来事をまだ消化しきれていないのであればそれらにしっかりと自分なりにけじめをつける。
人としての生き方を見直すきっかけとなった映画だった。