「生きていくことの複雑さ」息子のまなざし supersilentさんの映画レビュー(感想・評価)
生きていくことの複雑さ
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息子を殺された父親と子供を殺してしまった少年の物語。
少年の存在を知り最初は木工クラスへの受け入れを拒否するが、心の動揺のまま衝動的に少年を受け入れる男。元妻に狂気の沙汰とまで言われ問い詰められた男は、自分でもなぜ受け入れたのかその理由がわからない。
5年の刑期で出てきた少年。16歳の少年にとっては人生の3分の1の長い償い。しかし父親にとっては癒されるにはあまりにも短い5年。
殺してしまいたいほど憎い思い。しかしその憎しみは
その少年を許すことでしか癒されない種類のものなのかもしれないと気づいてゆく。
被害者と加害者。償いと許し。後悔と絶望。立場は違えどお互いはコインの表と裏。ともに深い傷を負ったもの同士なのかもしれない。正体を隠し少年と向き合う時間の中で、複雑な胸の思いは、なんの明快な説明もつけられないまま終局を迎える。
男はただ告白する。おまえが殺したのは俺の息子であると。少年は困惑し逃げ惑う。逃げ惑う少年を男は取り押える。抑えつけ勢い余って首を絞めそうにさえなる。しかしすぐに脱力し男は仕事に戻る。少年は何も言わずその仕事を手伝う。
明快な理由は最後まで説明されない。しかし人生は続くのだ。物言わぬ二人の静かな決意に、言葉で簡単に置き換えることのできない、生きることの複雑さを感じた。
ダルデンヌ作品に言えることだが、説明的な描写は最小限で、ハンディカメラでただ時系列に沿って現象をおっていく。ドキュメンタリーに近い手法で登場人物たちの衝動的な行動やぶっきらぼうな言動が逆にリアリティを与えている。
いわゆる戯曲的なわざとらしさと無縁。でもこれこそが現実の世界なんだよね。素晴らしい。
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