「本当の正義は報われない韓国社会の闇を軽やかに描く」ほえる犬は噛まない jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
本当の正義は報われない韓国社会の闇を軽やかに描く
舞台は韓国の巨大なマンションです。そのマンションには管理人オフィスがあり、そこには何人もの管理人たちが仕事をしています。また警備員のおじさんがいるし、小さな売店もある様子です。警備員のおじさんは物置になっている地下室でこっそり鍋料理を作って楽しんでいます。日本のマンションとは随分趣が異なります。
パク・ヒョンナムさんは管理人オフィスで経理や雑用をこなす若い女の子。実家暮らしで、親友は売店の売り子の女の子。悪いやつを捕まえて市民ヒーローになるのに憧れています。
彼女はマンションで発生した連続飼い犬失踪事件に首を突っ込み、1匹の犬の救助には成功しますが、管理人室をクビになってしまいます。管理人室長には彼女の活躍は伝わりません。本当の正義は報われないようです。
本作はパク・ヒョンナムを演じたペ・ドゥナさんのファニーな魅力とポン・ジュノ監督のカラフルな色やモブを使った演出が楽しめます。
マンション住民の若い女性。身重でありながら外で仕事をしています。夫のユンジュは家でゴロゴロしており、無職なのか稼ぎが少ないのか。クルミが好きで晩飯代わりに食べています。殻は夫に割らせます。
彼女は妊娠したというだけの理由で会社をクビになってしまいます。退職金で小さな犬を買い、残りは夫の昇進のために差し出します。
マンションの地下に住み着いた浮浪者の男。捕まえた犬を犬鍋にしようとしたところをパク・ヒョンナムさんに見つかり、暴行を受けた挙げ句、警察に逮捕されてしまいます。おそらく、他の2件の犬失踪事件の罪も被らされるのでしょう。最底辺を生きる者に有無を言わさずすべての罪を被せてしまう構図です。
若い女性や無力な男は浮かばれない、嫌な社会です。
いつも家でゴロゴロしているユンジュは文系大学院卒のエリートです。大学の教授を目指していますが、世渡り下手でなかなかうまくことが運びません。彼は他の住民の飼い犬を2匹殺します。理由は明示されませんが、このマンションは表面上飼い犬禁止になっており、彼なりの正義の執行なのでしょうか。
彼はキレやすい男で、妻とケンカになると手に持っていたハンマーを妻の方へ投げつけたりします。先に教授になったライバルの男が事故死したことを先輩と一緒に笑ったりします。先輩の助言に従い、妻の退職金を大学学長への賄賂にして、無事に後釜の教授に収まります。学長が無理強いしてくる酒も素直に飲み干します。失踪した妻の犬もパク・ヒョンナムさんが見つけてくれ、妻との関係も修復されます。彼の偽物の正義は罰せられません。
弱くズルくキレやすい男には、大学教授としての輝かしい未来が待っています。