「すさまじい「孤独」と「愛憎」。」魚と寝る女 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
すさまじい「孤独」と「愛憎」。
韓国映画界は作家性を前面に押し出した力のある監督が世界の注目を集めている。本作はそれらの牽引役を担うキム・ギドク監督の日本初公開作品。公開当時はその過激な描写から失神者も出たというが、過激なのは映像描写ではない(と思う)。ヒロインの壮絶な「孤独」と「愛憎」の心理描写がものすごくショッキングなのだ。釣り場を管理するヒロインは、湖畔にある事務所兼自宅から、各小屋をボートで行き来し、お客や食料などを運ぶのが仕事。湖上に浮かぶ小屋は、純粋に釣りを楽しむだけでなく、娼婦との情事を楽しんだり、犯罪者が身を隠すのにも使われる。終始怒ったような表情をし、一切喋らないヒロインは、社会と完全に隔離されている。生活のために体を売る事はあるが、それは断じてコミュニケーションではなく、単なる肉体の結合に過ぎない。彼女の言いようのない孤独感は、水面に立ち込める霧の寒々とした情景に重なる。そんな彼女が心を許したのが、殺人を犯してここに逃げてきた元警察官。2人のロマンスが主軸だが、それは心温まる美しい物語ではなく、愛憎まみえる壮絶な情念の物語だ。ギドク監督は、まるで脚本などなく即興で撮っているのかと思うほど、女の行動に一貫性が見られない。男に愛情を示すかと思えば、いきなり拒絶するなど何を考えているのかさっぱり分からない。しかしそれこそが、他人とのコミュニケーションをとれずにいる孤独な女の不器用さゆえなのだ。女の執念深さに恐れをなした男が釣り場を逃げ出そうとした時、女は釣り針の束を自分の性器に突き刺す。この行為に何を観たら良いだろう?ベルイマン『叫びとささやき』、ハネケ『ピアニスト』でも同様の描写があったが、そこに観るのは「人間」としてではない「女」としての絶望なのかもしれない。ラストカットで映し出される痩せた女の裸体は、美しくもあり醜くもある哀しい「女の性」そのものだ・・・。