恋愛準決勝戦のレビュー・感想・評価
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『2001年宇宙の旅』をリスペクトしている。 理屈は在り過ぎるのだ...
『2001年宇宙の旅』をリスペクトしている。
理屈は在り過ぎるのだが、語っても仕方ない。
一つだけ。日本人が見て共感を覚えるのが、ロイヤルウエディングの場面だろう。アメリカンに向かって『君の国では出来まい。ハハハ!』
イングランド系アメリカ人、つまりヤンキーは、どうやらそこがウィーク・ポイントの様だ。今は知らないが。
でも、この映画そんな事関係ナイ。
カメラは踊る
プルーストは『失われた時を求めて』において万人に共通する客観的時間とは違った、主観的時間というものが存在していることを示した。要するに、印象的な思い出についてはいくらでも語れるけど、どうでもいいことについてはそれがあったかさえも思い出せない、というやつ。
こういうことは時間以外のことにもいえる。たとえばものすごく楽しいことがあったとき、私はすれ違う人や動物や建物さえもが小躍りしているかのように見えることがある。ただこれはあくまで私にはそう見えたというだけだから、もちろん実際にはそんなことは起きていない。「ホントにそうだったんだよ!」と私が言ったところで「お前の中ではな」と返されるのが関の山だ。
ミュージカル映画とは、主観的なものの見え方・感じられ方を前面化し、誇張するものだ。ミュージカル映画では登場人物の心境があらゆる現象を引き起こす。主人公が何かを感じると、それに沿った音楽が流れ、街ゆく人々までもが一緒になって踊り出す。
本作も例に漏れず、トムやエレンの色恋沙汰に合わせてさまざまなトーンのミュージカルが展開される。殊にフレッド・アステア扮するトムの卓抜したタップダンスにはジャッキー映画の音ハメアクションのような気持ちよさがある。
とはいえ何を措いても言及せねばならないのは、トムが部屋の中で意中の女性のことを思い浮かべながら部屋をグルグル歩き回るシーンだろう。ここは本当にすごい。トムが壁に足をつけたかと思うと、なんと壁を歩行し始める。すると今度は天井、反対側の壁、床、といった具合に部屋の中を文字通り縦横無尽に歩き回る。
種明かしをすれば、これはグルグル回転する巨大な「部屋」のセットに固定されたカメラが捉えた映像だ。つまりフレッド・アステアが動いているのではなく、部屋とカメラが動いている。言わずもがなこの手法はスタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』やクリストファー・ノーラン『インセプション』等でも用いられることになる。
ミュージカル映画は主観的なものの見え方・感じられ方を誇張したものであると私は述べたが、さすがにこの発想はなかった。でも実際トムのソワソワした心境がものすごくリアルに伝わってくるし、これ以上の演出はないと思う。街ゆく人々が踊り出すのなら、背景やカメラが踊り出したって何も不思議じゃないものな。
本流であるメロドラマそのものにさしたる面白味がなかったことが玉に瑕だが、それでもミュージカル映画としては文句のつけようもなく傑作だった。
ラストのエリザベス女王結婚式典の映像はちょくちょく本物の映像が混ざってたんだろうか?時折見分けがつかなくなるくらいライブ感があってよかった。
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