「最高の映画」マリア・ブラウンの結婚 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
最高の映画
やっと映画館で見ることができた。嬉しい。こんなに面白くていい映画だったんだあ!と何度も見たはずなのに改めて感動した。忘れていた箇所も多くこんなに大袈裟な効果音だったっけ?と驚いたりもした。
戦中、戦後のドイツと女を平行して進行させる構成の巧みさ、ハンナ・シグラの素晴らしさとシグラの魅力を引き出した演出に改めて感動した。マリアは化粧も衣装も髪型も表情もどんどん垢抜け美しさが煌めいていく。ますます賢く自立した女になっていく。そして割り切りドライになる、奇跡の経済復興を成し遂げた西ドイツ同様に。それでも夫・ヘルマンへの愛は変わらない。信じられないほど変わらない。その愛は、これ以上ないほど強くて正直で純粋でロマンティックでまっすぐで無欲。こういう愛をファスビンダーは信じていたのか?それとも信じたかった?憧れていた?
そしてラジオの効果。戦後すぐは、再軍備なんて軍隊なんてとんでもない、これ以上若い人達を死なせたくないとラジオで言っていたアデナウアー、数年したらそのアデナウアー、同じ口で再軍備しますとラジオでしゃあしゃあと言っていた。昔も今も政府とか国家なんてころころ変わるんだ。いろんな人が指摘していることだが、映画の中に挟み込まれるその時々のラジオ放送の内容とドラマの交差がとても生きていた。
(2023.07.28.)
ハンナ・シグラの美しさと凛々しさと逞しさに惹かれる。夫のヘルマンが刑務所に居てマリアが訪ねてガラス越しに話す場面がいい。いつの間にか大声になって、その話の内容に廻りの人達が一瞬静かになってみんなで笑ってしまうシーン。いつでもどんな時でも笑いの力は大きい。ラジオのサッカー中継でやっとドイツが自信を取り戻した、ドイツ国民皆がおそらく熱狂して喜ぶ瞬間、まさにそのときにキッチンのコンロで煙草に火をつけてしまう最期は辛い。
talismanさん、他多くの共感ありがとうございます。
今回見直して、室内シーンの演出が巧いと思いました。人物の動きに無駄が無く、カメラワークもアングルも丁寧に計算されています。初公開時は、殆どロングショットのない点で映画的なスケール感不足に物足りなさを感じたかも知れません。しかし、よく観るとこの作品は演劇映画ですね。一つ例を挙げると、亡くなったはずの夫ヘルマンが、マリアとアメリカ兵との密会に出くわす場面です。身体を寄せ合うふたりを半開きのドアのところで見詰め呆然と立つヘルマン。いくら情事に夢中でも人の気配を感じるし、また視界に入るものです。しかし、暫く気が付かないことで三人の動きを注視する緊張感が増幅します。リアリティ優先の演出ではなく、舞台らしい場面で人物を表現する。ヘルマンが怒りの殴打からテーブルのタバコに駆け寄るところがいいですね。この一息付いてシーツに八つ当たりするヘルマンの感情というもの、色々想像できます。それを止めようとしてつかみ合う男たち。そこで終止符を打つマリア。現実的な修羅場ではなく、マリアとヘルマンの心理を反映させた演劇的な見事な場面でした。
talismanさん、43年振りに見直して観ました。残念ながら字幕なしのVODですが、音楽と人物の動きの演出がとても面白かったです。カメラワークも計算されていて、自由自在に人物を捉えてますね。鏡の使い方も上手く、主要な部屋のショットも演劇的な演出で緊張感に満ちていました。ドイツでは舞台化されているようですね。それとハンナ・シグラの美しさに魅了されました。ファスビンダー監督を慕うフランソワ・オゾン監督の新作「苦い涙」に主人公の母親役で出演されているのを予告編で知りました。これは「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」のリメイク男性版。貫禄が付いても美しさは衰えていませんね。
モーツアルトのピアノ協奏曲は、私の記憶違いがありました。マリアではなくオズワルドがカデンツァの短いフレーズをなぞるように数回弾いていました。これはBGMではなく部屋のラジオか、もしくはレコードから流れているとも捉えられます。説明的なショットが無いため判断しかねるのが正直なところです。
ファスビンダー監督を個性豊かな映画人と若い頃印象に持ちましたが、よく観ると演劇の素養ある確かな演出家と改めて思いました。
私にとっての大きな引っ掛かりは、たった3日間の恋愛で、あんなに好きになれるものか、という点です。
マリアは本当にヘルマン自身を愛してたんだろうか?という疑問です。
なんか例えは少し違うかもしれませんが、「恋を知らない女の子が恋に憧れる」的なものを感じました。
ハンナ・シグラさん、大好きなんですね。
私は事故ではなくて、意図的に爆発をさせたのかと思ってしまいました。
煙草の後のガスの消し方法が、あまりにもわざとらしくて・・・。でも、そんなことをする理由はありませんよね。
主人公の魅力に比べて、あまりにも魅力のない旦那さんにガッカリでした。どうして、あんな男にあそこまで惚れることができるのか、不思議でなりません。
映画全体としてはとても好きなのですが、最後の解釈がよくわかりませんでした。
talismanさん、コメントありがとうございます。ハンナ・シグラの解釈素晴らしいですね。ヘルマンのような男性は、たぶん当時のドイツに多かったかもしれませんね。いろんな解釈や見解があるのも、この作品の魅力だと思います。
共感&コメントありがとうございます。
夫への愛情はもちろん有るんでしょうが、それ以上にビジネス感覚で理性的に計画を進めていくマリア、ドイツ人のイメージだなあと思いました。