劇場公開日 1963年8月23日

「少年の村はウクライナ南部 ドニエプル川の東側沿いの村だったのです 今まさに77年前と同じことが起こっているのです! 本作は現在進行形の映画だったのです」僕の村は戦場だった あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0少年の村はウクライナ南部 ドニエプル川の東側沿いの村だったのです 今まさに77年前と同じことが起こっているのです! 本作は現在進行形の映画だったのです

2022年4月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

今日は2022年4月26日です
ウクライナにロシア軍が侵略を始めて2ヵ月と2日が経ちました
今こそ観るべき映画です
1962年の映画です
しかし現在進行形の映画なのです

アンドレイ・タルコフスキーの初監督作品
反戦映画です

舞台は第二次世界大戦のロシア
戦っているのはソ連軍(ロシア軍)とドイツ軍
主人公は12歳の少年イワン

彼の父は戦死、母と幼い妹はドイツ兵に殺されています
それも単に撃たれて殺されたのでは無く乱暴された末のことのようです
彼の村は戦場となり瓦礫の山です
顔見知りのおじいさんの家は煙突と暖炉だけ、あとドアだけが燃え残っています

冒頭や中盤の回想シーンは、村が戦争になる前の平和な頃の少年と母と妹、友達らとの楽しい思い出です
彼の背中には、ドイツ軍につけられたであろう大きな傷跡もまだなく、表情も12歳らしい優しい笑顔です

しかし、今の彼はソ連軍(ロシア軍)の少年スパイとして、ドイツ軍の占領地域に潜入して敵の戦力の配置状況を偵察して、ポケットの木の実や枝の数をメモ代わりにして探ってくるのです

危険な行為です
なにしろソ連軍の偵察兵二人は、殺されるだけでなく見せしめに川の土手に晒し者にされているほどです

しかし地元の子供だからスパイとはバレないからと、孤児院行きを拒否して自ら進んで志願したようです
彼を使っている中佐もそろそろヤバいと彼を任務から外して、幼年学校に行けと命じます
しかし、彼は「戦争中に休むなんて役立たずだけだ」と逃げだしてスパイを続けようとするのです

ラストシーンは1945年5月
ソ連軍がベルリンを占領して戦争が終わった直後です
恐らく本作の物語は1945年の早春2月ごろから4月ごろにかけてのお話なのです
場所はそうウクライナです

冒頭で夏に母と水遊びした川
序盤でイワンが泳いで渡った大きな川
偵察兵二人が殺されて晒し者にされた川岸
中盤の回想シーンで友達や幼い妹と鬼ごっこした川
イワンが小舟で敵軍のいる向こう岸にわたって消息を絶った川
その川はドニエプル川です

少年の村はウクライナ南部
ドニエプル川の東側沿いの村だったのです
今まさに77年前と同じことが起こっているのです!
本作は現在進行形の映画だったのです

同じ場所で、西と東が入れ替わり、敵はロシア軍となって全く相似形の戦争が行われているのです

戦火で無惨に破壊された村は、今日私たちがカラーでテレビニュースで視た光景そのものです

壁も屋根もなく、煙突と暖炉とドアしか残っていない家に招き入れてくれるおじいさんが今にもニュースに現れて、テレビカメラに向かって同じことを話しそうです

残虐に殺された民間人の写真は、本作のワンシーンがカラーでスチールにされたかのようです

今の戦争なら敵軍の配置はドローンが偵察してくれると思います
それでも本作の少年イワンのようなウクライナ人の少年が、ロシア軍支配地域に潜入してドローンではわからない部分を偵察しているかもしれません

その21世紀の彼の村はドニエプル川の西側で
「僕の村は戦場だった」のです

ロシア軍、ウクライナ軍
どちらがナチなのか
タルコルスキーは予言していたのかも知れません
ソ連軍(ロシア軍)も一皮向けばこうだと

タルコルスキー監督の父、アルセニー・タルコフスキーはウクライナの著名な詩人であると初めて知りました
それも今まさに激戦地であるヘルソンの出なのだそうです

水の表現の美しさだけの映画ではないのです
それだけに目を奪われてはなりません

映画はナチが敗北して終わります
しかし無名の犠牲者は山のようにあったのです
子供ですら容赦されないのです

それが戦争の現実です
今こそ観るべき映画です

あき240
When I am 75♥️さんのコメント
2022年4月27日

ロシアのウクライナへの侵略に、現時点で降伏をと言い切るのは可笑しいですね。
ナショナリズムを持ち出すのも可笑しいと思います。
しかし、タルコフスキーはソビエトにもロシアにも愛国心はありません。なぜなら、ソ連を見限って、フランスへ亡命して、客死しています。その事実から、ナショナリズムに煽られる怖さをタルコフスキーはこの映画で描きたかったと僕は思いました。
あくまでも、僕の考えですが。

When I am 75♥️
あき240さんのコメント
2022年4月26日

当事者でもない遠い遠い他国の著名人が、戦うから犠牲者がでるのだ、早く降伏すべきだと主張する、その無責任さと考えの軽さを本作は暗黙に告発しているように感じられました

家族全員を殺された少年の無念さはナショナリズムから来ているものなのでしょうか?
彼の行動は大人に強制されたものだったのでしょうか?煽られたものだったのでしょうか?
少年をそのように変えてしまった理由は何なのか?
それが本作の反戦メッセージだと思います

あき240
When I am 75♥️さんのコメント
2022年4月26日

追伸で申し訳ありません。
女狙撃兵リュドミラ・パヴリチェンコの姿を描いた『ロシアンスナイパー』
その他に『太陽に灼かれて』『戦火のナージャ』『遥かなる勝利へ』と言ったおすすめの映画もあります。
『僕の村は戦場だった』に近い何かがあります。
そして、やっぱり『戦争と平和』は一見すべきだと思います。トルストイの小説を読むのが一番ですが。

When I am 75♥️
When I am 75♥️さんのコメント
2022年4月26日

年端のいかぬ少年が、自国のナショナリズムに煽られ、戦いに出ていかなければならないと言う非情さが怖いのだと思います。
僕がこの映画を初めて見た時、何故少年は逃げないのかなぁと思いました。勿論、逃げないのでは無く、逃げられないのでしょうが「未来のある少年が、生き抜こうとせずに、たった一人で戦いに出てい行く」少年の勇気ある姿が、僕には不条理に写りました。そう言う意味で反戦映画だと思っています。

When I am 75♥️