「万人受けはしないが、過酷でエネルギッシュな傑作だ。」暴走機関車 瀬戸口仁さんの映画レビュー(感想・評価)
万人受けはしないが、過酷でエネルギッシュな傑作だ。
アラスカの重犯罪者刑務所から脱獄を繰り返し、懲罰房に収容されていたマニーは、彼を激しく憎むランケン副所長から殺されそうになり、自分を慕う若者バックの協力を得て、2人で脱獄に成功する。
2人は機関車に乗り込んだが、老年の鉄道技師が心臓発作を起こして列車から転落。
さらに、ブレーキシューが焼けてしまい、機関車は暴走を始める。その一方、ランケン副所長は、マニーを執拗に追いかけていた、、、。
機関車に乗っていた3人目の人間、女性作業員役で、レベッカ・デモーネイが出ている。
本作の脚本は、黒澤明、小国英雄、菊島隆三が書き下ろしたオリジナル脚本(黒澤以外はノンクレジット)で、黒澤によって米国で撮影が進んだが、1967年に出資者とのトラブルで中止になったもの。
1982年、この脚本を所有する日本ヘラルド社が、フランシス・フォード・コッポラに監督の推薦を依頼した。コッポラとプロデューサーは、アンドレイ・コンチャロフスキーを推薦して、本作の製作に至る。
1975年の邦画『新幹線大爆破』では、企画の坂上順が、本作(の脚本)などをヒントにしたとインタビューで認めている。
また、1994年の『スピード』では、脚本のグレアム・ヨストが、父親でカナダのテレビ司会者エルウィ・ヨストから本作の話を聞き、黒澤明が書いたオリジナル脚本を読んで思いついた(父親が、本作の映画化に関係していた)とDVD(アルティメット・エディション)の音声解説で述懐している。
よくありがちなアクション娯楽大作だと思ってると、大きく裏切られる。重犯罪刑務所の囚人が遭遇する非人間的な扱いや、副所長のあまりに酷い過剰な言動、物語を通じて汚い描写や表現など、万人向けの映画とはいえないかも。
とはいえ、非常に厳しく、力強い映画であり、人間の生々しい感情と、悲劇に向かっていく苛酷な物語が展開される。列車を狂った生き物のように描いているのも興味深い。
囚人以外の生き方が選べなかったのかと、痛烈な緊張感に満ちたアクション大作だ。全編を通じて、まるで機関車に乗っているかのように、疾走感に満ちたエネルギッシュな傑作だ。