「時の権力に翻弄され、日和見的に思想や信条を日々変化させる狡猾で不甲斐ない大人たちをシニカル描いているのが秀逸。」ブリキの太鼓 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
時の権力に翻弄され、日和見的に思想や信条を日々変化させる狡猾で不甲斐ない大人たちをシニカル描いているのが秀逸。
早稲田松竹クラシックスvol.235/『退廃する街で』と題した特集上映にてフォルカー・シュレンドルフ監督『ブリキの太鼓』(1979)、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品『ベニスに死す』(1971)の2本立て鑑賞。
『ブリキの太鼓<劇場公開版>』(1979年/142分)
高校生以来、実に35年ぶりの鑑賞。
当時は『オーメン』(1976)や『キャリー』(1976)、『ブラジルから来た少年』(1978)、『チャイルド・プレイ』(1988)のような子どもを題材にしたドイツのホラー映画と勘違いしてレンタル、仰天した思い出がありますね。
産まれた時から大人顔負けの知性を持っているプロットは、市川崑監督『私は二歳』(1962)や『ベイビー・トーク』(1989)に近いですが、3歳で成長することを止め、「子どもの着ぐるみ」を着ながら、冷静に大人の目線で世間を洞察。
第1次世界大戦~ナチス政権下~敗戦までの激動のドイツを、時の権力に翻弄され、日和見的に思想や信条を日々変化させる狡猾で不甲斐ない大人たちをシニカルに描いているのが秀逸。
ファンタジー、寓話的な作品に見せかけ、当時の国家の方針が決して政権だけでなく、民衆も積極的に賛同したことをきちんと描かれている点はドイツ映画としても珍しいですね。
カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、アカデミー外国語映画賞を獲得したのも納得です。
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