「3人の、傷ついた心を抱える人が紡ぐ、フォレストが体験した、フォレストから見たUSA小史。」フォレスト・ガンプ 一期一会 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
3人の、傷ついた心を抱える人が紡ぐ、フォレストが体験した、フォレストから見たUSA小史。
DVDの解説で監督もおっしゃっていたが、
あくまで、フォレストが体験し、フォレストが見て、理解したUSA小史。
体験したこと、教えてもらったこと、見たことを素直に受け取るフォレスト。
語られないものは理解できない。言葉や、現象のその裏・背景は理解できない。
だから、ジェニーがなぜ、生まれ育った家に石を投げるのか、驚き訝しがりながら見守るだけ。ジェニーが「鳥になりたい」と”ここ”から逃げ出したい願いは理解するが、その理由は解っていない。祖母の家で暮らすようになったことも、そこに虐待があったのではないかという推論はなく、ただ、願いが叶った・家が近くなったとしか理解しない。
黒人が大学に入学してくる時も、「黒狸」が本当に来るのかと思い、周りの騒ぎには何が起こっているのかとそわそわするが、状況とその意義は理解せず、落としたものから、所有者に戻すだけ。
大統領のジョークも理解せずに、戸惑いながらも、上司の命令に従い、傷を見せる。
なぜか、反戦集会に巻き込まれ、勲章授与者があんな所に居たらどうなるかなど考えずに、司会者に頼まれ、フォレストが経験した戦争についての話をする。
そう、この映画は、フォレストが経験し、見て、感じて、理解した、フォレストの人生史をバスストップで語るだけ。
サイドストーリーとして、ジェニーとダン小隊長、そして母が出てくるが、あくまでフォレストとの接点でしか登場せず、その間に彼らがどのように生きてきたかは語られない。
フォレストを狂言回しとしてUSA小史を描いたのではない。
フォレストは、その類まれな才能で、ありえないほどの栄誉と成功を収める。
一般的には人生で一度もあり得ない大統領との謁見が3回。ラグビーと卓球で、国際試合にて健闘。戦地での人命救助で勲章授与も。大会社の社長にもなり、雑誌の表紙も飾る。そして、投資して一生困らないだけのお金を得る。走れば、知らぬ間に教主に祭り上げられていて…。アメリカン・ドリームの体現。
けれど、これはフォレストが望んだことなんだろうか?そりゃ、ふだん周りの人間からバカにされていた身としては、嬉しいことだろうけれど。
ジェニーから「あなたがパパよ」と聞かされた時の引きつったような苦渋の表情。Jr.の知的レベルを心配するフォレスト。自分と同じならば、Jr.もいじめられると恐れおののくフォレスト。遺伝すると思っていたらしい。どれだけ、学校でいじめられたのだろう。どれだけ傷ついたのだろうか。Jr.も同じ体験をするのだろうかと引きつるフォレスト。
母は、フォレストの知的レベルに合わない学校に、彼を入れた。それが、フォレストをどれだけ苦しめたのだろうかと、Jr.を心配するフォレストの表情を見て、思ってしまう。
彼には、走るのが早い(でも陸上部ではないところが面白い)。人から命じられたことを愚直に守り、遂行する。大切な人から罵倒されようが、振られようが見捨てないという才能がある。一芸は身を助けるとはいうものの、巡り合わせの運も彼の人生に追い風として味方したから、”成功”できたのだろうが、もし逆風が吹いていたら…。
教育によって、その子の可能性を潰すのか、伸ばすのか。それは、その子の心を守るのか、潰すのか。とりまく環境との兼ね合いや相性もあり、一般論としての答えは見つからない。
ラスト、一途な思いが叶って、恋い慕っていたジェニーからのプロポーズ。でも即答しない。ここでも、引きつった表情で視線がきょろきょろ動くフォレスト。返事に間が開く。怖れ。
3年前、フォレストから「僕はいい夫になる」とプロポーズしたのに。思いが叶ったかと思ったら、消えたジェニー。また、ここで「Yes」と言ってしまうと、ジェニーが消えてしまうと思ったのだろうか。先の見通しをもつことは苦手なフォレスト。でも、過去から学ぶことは得意。ママは「死は生の一部」と言ったけれど。ジェニーのいう「治療法はない」をどう理解したのか。ずっと看病できるけれど、3年前のように、また消えるのかとでも思ったか。そして、実際に、ジェニーはこの世から消える。
一見、成功者のように見えるが、フォレストの抱える傷つきに胸の奥が痛い。
ジェニー。「鳥になって、逃げたい」と、安住の地を探し続けていた。
「お父さんは、子どもたちの体を触っている」とも言っていたから、身体虐待だけでなく、性的虐待もあったのだろう。
性的虐待を受けた人は、体の関係を通してしか愛を感じられないことが多い。だから、大学の寮で、フォレストがビビってしまってから、フォレストとの関係はあり得ない。体の関係が、ジェニーにとって「本当の愛」。体の関係のないフォレストのことは、身近過ぎて、弟とかぐらいにしか思えないのではないか。
被虐待児の特徴として、静かな環境が苦手という人もいる。静かな環境は、何か悪いことが起こる前触れだから。常に刺激を求めて、不安や怖れを紛らわせないと。だから、穏やかで変化のないフォレストとの暮らしでは落ち着けない。
そして、フォレストは「アラバマに帰ってこい」と言う。ジェニーにとっては、思い出したくもない”家”がある場所。友達も、フォレスト以外いたのだろうか?フォレストとは別の理由で仲間外れにされるとか、いじめがあったのではないだろうか。そんなジェニーの思いには鈍感なフォレスト(ダン小隊長にも、無神経に「足がないのに?」と言ってむっとした顔されているし)。
DVDの解説で、監督は、「フォレストは光。ジェニーは闇」とおっしゃっていた。ジェニーにとっては”光”はまぶしすぎて。だから、フォレストからプロポーズを受けた時の答えになる。だから、フォレストの元に留まれない。自分が汚れ切っていることは知っているから。
それでも、フォレストのことを性愛の対象としては見られないけれど、一番誠実な人であることは知っているから、大切な息子を託す。”息子”と聞いてビビるフォレストに「あなたは何もしなくていいのよ」となだめるジェニー。後ろ姿がそっくりなフォレストとJr.。遺伝子は繋がっている。
自分が一番欲している居場所がどこにあるか、解りすぎるほどわかっているのに、そこに留まれないジェニーの傷つき。胸がかき乱される。
ダン小隊長。生き様を決めていたのに、思いもよらぬ展開になり。
喚き散らさないフォレストの代わりに、感情の高ぶりが激しい。一番、心の成長が見えやすい。
紆余曲折。フィアンセが、中国系ベトナム人に見えてしまうのは私だけであろうか?
最終的に落ち着くところに落ち着くけれど、ベトナム戦争で運命を狂わされた心の傷。
そんな、3人のストーリーを展開させながら、フォレストに体験させながらUSA小史を描く。
あんなに、大統領襲撃事件が連発していたのだと改めて驚く。
カルチャーの巨人も出演。エルビスはキング牧師を暗示するともいう。キング牧師、ジョン・レノン氏お二人とも凶弾に倒れる。
フォレストの名も、KKK団とか。
そういう形で、暴力で世の中を動かそうとする世相を表現しているのか?
フォレストを”光”として中心に置き、苦しむ”闇”として、ジェニーとダン小隊長を配する。
フォレストを”光”としているからと言って、ベトナム戦争を”賛”としているわけでも、軍部を”光”としているわけではないだろう。
”天使”の祝福を受けた如く、何もかも疑わず、(卓球のラケットは盗んだけれど)不正もせず、人を貶めることもしない、性格・生き様として”光”を体現するフォレスト。勿論、喜怒哀楽は感じ、心の仲がぐちゃぐちゃになって思わず走り出してしまうけれど。基本、自分に対する信頼は揺るがず、自分軸は揺るがない。
羽が舞い降りる時点から、フォレストは完全なファンタジーとして描かれる。そして羽は舞い上がり、物語は閉じる。
反対に、自尊感情がないジェニー。反戦活動をしているから”闇”というのではないだろう。
そもそも、反戦運動も、どこまで本気でコミットしているのか。ただ、その場の雰囲気に流されていく。性愛を満たしてくれる相手や居場所を作ってくれる人にくっついていくだけ。その、生産性のない、自分を本当に幸せにしてくれるものから、どんどん離れていくさまが”闇”なのだろう。現代の”トー横”に集う子どもたちの如く。慢性的な自殺。
この時代、こんなヒッピーがたくさんいた。自己啓発もムーブメントになった。覚せい剤・麻薬・大麻等の薬物も、嗜む人が進歩的なイメージ。
ダン小隊長。当時の傷病軍人の代表。”闇”。
ゆるぎない自尊感情が、一転して…。そして…。
他の映画のように、志願・召集された若者ではない。代々続く軍人家系。それでも、それだからこその傷つき。
そして、もう一つのUSAの”闇”。
フォレストの走りに集まってくる人々。かってに、フォレストを”真理を見つけた人”に祀り建てて、フォレストが走るのをやめたら「俺たちはどうすれば…」。自分の頭で考えずに、誰か・何かに依存する人々。トランプ氏があんなに力を持つのかわかる気がする。
嬉しいのは、ジェニーとダン小隊長には、それなりのハッピーエンドで映画は終わる。
(ジェニーの肉体は死んだけれど、魂は安住の地を見つけた。息子も残せたし。「死は生の一部」という台詞が活きる)
★ ★ ★ ★ ★
そんな物語が、コメディをたくさん取り入れながら、その時の世相を表す当時の音楽にのせて展開する。
脚本が良い。
演出が良い。
フォレストが自分の人生を語っていく手法は『アマデウス』を観て、採用されたと、DVDの解説でおっしゃっていたが、同じような手法でも、こんなに印象が変わるなんて!
役者が良い。
ロビンライトさんの人生をあきらめたような眼差し。
ゲイリーシニーズ氏の、足のない演技。ハリケーンの時の闘い。
でも、やっぱり、トム・ハンクス氏のなりきりに尽きる。
ただの、自閉症スペクトラム障害の特性を持った方の真似ではない。そのような特徴を持った方が、こういう状況に陥ったら、こういう感情になったら、どのようなふるまいをされるかをわかりぬいて演じていらっしゃる。
そして、台詞回し。子役の言い方をそのまま受け継いだとか。流れるような語り口で、ついつい引き込まれてしまう。鑑賞したDVDの吹替に違和感。ハンクス氏の声の方が100倍良い。
そして、高校生の時の表情。父としての表情。
その才能にひれ伏してしまう。
結構、悲惨な状況、USAの暗い時事ネタも描いているのだが、鑑賞後、ほっと光が灯ったような、温かい気持ちにさせてくれる映画。
だが、フォレストの隠された傷つきが心に残って、この映画を手放しで大絶賛できない。
(原作未読)
2024年7月20日加筆。