「下條アトムがいい」ビバリーヒルズ・コップ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
下條アトムがいい
このシリーズや48時間が楽しかったのは、おそらく下條アトムの吹替が優れていたからだと思う。
若い頃は、大なり小なり、厨二なところがあったので、洋画は字幕じゃなきゃイカン、吹替なんて邪道だと、みなしていたものだが、歳をくって、下條アトムのエディマーフィーが、ホントにすごい、と判った。
いつの時代にも、はまり役の声優がいた。チャールズブロンソンの森山周一郎。ピーターフォーク(刑事コロンボ)の小池朝雄。
イーストウッドの山田康雄も、軽すぎるとか言われながら、適役だったと思う。
昔は、映画館でなければ、テレビで吹替の映画を見るのが、庶民の映画鑑賞の方法だったので、彼らのような代替不能な声優が存在した。
違う声でやったら映画が成り立たないほど、馴染み深いものだった。
下条アトムのエディマーフィーも最初はなんだかなあという印象だったが、映画をみていると、役にはまってくる。特に抑揚に特長がある。ふつう絶対にあり得ない抑揚で喋る。語尾が浮いたまま、言い終わっていないかのように言い終わる。いつも冗談なのか本気なのか不明瞭。この抑揚を創造した下條アトムは、すなわちエディマーフィーを創造した、といっていいと思う。
下條アトムのエディマーフィーが、何故すごいのか。
人生において、あまり言うことのないセリフだが、女性に「たのむよ、やらせてくれよ」と言ったとき、自分が、自然に下條アトムのエディマーフィーになったことがわかった。逆に言えば「たのむよ、やらせてくれよ」というセリフは下條アトムのエディマーフィーでなければ言えない、ということもわかった。
これを使ったのは大昔に二度くらいで、もう使うこともないだろうが、普通言えないセリフを言えるキャラクターを創造したのだから、下條アトムのエディマーフィーはすごい──のである。
ちなみに二度ともやらせてもらえなかったが。