劇場公開日 1970年8月25日

「元々のTVスペシャルから劇場公開の経緯を辿ったことから微妙なことになった作品が、ついにレストア再公開に」ザ・ビートルズ Let It Be アンディ・ロビンソンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0元々のTVスペシャルから劇場公開の経緯を辿ったことから微妙なことになった作品が、ついにレストア再公開に

2024年4月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、DVD/BD、その他、映画館、TV地上波、VOD

映像のクオリティについては上記の理由で公開についても、そもそも1stをイメージしたスタジオ・ライブ感の新譜LP『Get Back』とのコラボ規格が同アルバムが頓挫したことにより、そうした当初のコンセプトの破綻と、時期的にもタイミングを逃してしまったことによる結果と言える。

従って内容的にも、紆余曲折の末に仕切り直しされ、大幅な編集とオーヴァーダビングを施す結果となったリプロデュース・バージョンLPの『Let it be』と合わせる必要があり、また事実上のラスト・アルバム(発売順)と認識された作品からも漂ってくるかのような、末期状態の空気感を孕んだような演出に寄っている印象を受ける作品となって(捉えられて)しまっている。

またその後は、複雑に絡んでいた権利関係の問題も手伝い、LD時代などを最後に長年、公式には今回に至るまでの間、殆ど封印状態に近かった。
個人的には、昭和の時代に名画座による「ビートルズ・フェスティバル」と冠したユナイト配給の関連作品3本立てなどの上映で再三鑑賞し、その後も所有する初期TV放送やノーカット放送時の録画時のもの、海外版LDなどにより一定期間ごとの鑑賞は続いていたとは言え....

その辺りの種事情からきた”負目”を完全に晴らすべく、ピーター・ジャクソン監督により完成された映画『GET BACK』が劇場公開を見送り、ネット配信への企画変更により逆に3倍近い長尺のヴォリュームでの公開が決定し、それが実際に完成に漕ぎつけたその時には、まるで半世紀たってやっと全ての雪辱が晴らされた時がきたと感じ、溜飲が下がる思いに震えた。

そして、限定公開が決定し、実際にこの眼で目の当たりにしたIMAXレーザーの大画面で劇場公開された『ルーフトップコンサート』は様々な長年の思いが巡り、文字通り感涙した。

更に今回、複雑に絡んでいたらしい権利関係の問題も解消の運びとなり念願の、再びピーター・ジャクソン監督の映画『GET BACK』と同様の手法でブラッシュ・アップ復元完成されたレストア(修復)版による元祖『Let it be』の再公開が、2024年5月8日からDisney+での配信という形に結実し、その一報がリアルに公表されたのを確認することが出来、最後の劇場鑑賞からは実に50年近く経過していることからも感無量な限りのことである。

特に、ピーター・ジャクソン監督による映画『GET BACK』は”自分だったらこうやる”バージョンを示すという行為よりも、今作の補完を行うかのように、同監督はあくまでも映画『Let it be』ありきの前提でリスペクトの上で、メイキング映像集の如く「裏舞台見せちゃいます」的に時間の流れに沿って構成し、重複する部分もごく僅かに抑えて作品を仕上げいるところに愛を感じさせられた。
従って、ピーター・ジャクソン監督作品『GET BACK』と、映画『Let it be』は相互に補間し合う関係にあり、これにて「本当の完成を見る」ことになるであろうと思う。

それも恐らくであるが、前述のようにあまりにもフィルムの粒子も荒く薄く暗くなってしまった、TV放送用クオリティの16mmからの劇場上映用ブローアップ仕様の35mmフィルムの映像から受ける、そして殊更”ビートルズの解散”と連動させるような手法の当時の宣伝効果も手伝い、暗い陰惨な印象だったこの作品のイメージも、映画『GET BACK』と同水準の品質に生まれ変わることによって、その画面から受ける印象がこれまでとは全く異なったものに一変するのではないかとの予感とともに。

そして、実際にその映像を目の当たりにし、まるでピントが甘くボヤけていたかのようだった粒子の荒かったあの映像は別物と化し、その映像の鮮明さと共に、重なりあい一塊となってしまって聴き取るのが困難だった音響も素晴らしいクオリティへと変貌ぶりを遂げている事を確認する事ができた。
これで、陰惨な印象も相当払拭されと思えた。

因みに、今回のリニューアル・バージョンでは、冒頭に両監督による対談(オンライン?)が付随しており、またエンディングも別の、劇場作品(レストア関係者クレジットも)っぽい処理が施されていた。
それには、従来無かった収録曲データの完全リストも含まれる。
ただその代わりに、旧作のエンディングでストップモーション状態になったところで現れるクレジットが、その寸前で切られたような印象になってしまっていたのがちょっと気になってというか、違和感があった。
まあ、個人的には長年に渡り、殆ど半世紀馴染んで来た映像だったんだから、それも致し方なかろうと。

これがこの作品の初見という人には関係ない事ですね、寧ろ初めからこのクオリティで鑑賞できるということは幸せな事と言えるでしょう。

余談ながら、Johnのギター(とバック・ヴォーカル)を聴くことが出来る楽曲「Let it be」のフル・バージョンは、公式のものではこの映画のバージョンのみであろうと思う。
それ以外のレコード用に録音〜ミキシングされた公式発表版ではJohnのギター演奏トラックは上書きされて差し替えられてしまっているので。

アンディ・ロビンソン