パリ、18区、夜。のレビュー・感想・評価
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パリの異邦人
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人種の坩堝、18区。パリという華やかな都会の夜にはいつも犯罪の匂いがする。男の口約束を信じてリトアニアからやって来る者、都会暮らしを捨てて自給自足の生活を夢見る者、毎日を“流されて”生きる者、そして殺される者・・・。連続老女殺害事件を巡る、18区に住む者たちの群像劇。都会の魅力とはいったい何だろう?大きな成功、最先端の生活、富と名声?しかしそんな成功をつかむことなど宝くじに当たるより低い確率だ。ほとんどの者が、平凡な生活で、都会の片隅に埋没するのだ。「都会に3年暮らせたら、都会の生活に向いている」と聞いたことがある。3年我慢できなかったら田舎に帰った方が良いようだ。だが、都会の生活から抜け出したくても抜け出せない者もいる。そのまま“流される”だけなら良いが、その流れの先にある犯罪の渦にのまれてしまうと2度と再び明るい場所には戻れなくなってしまう。ゲイのカミーユはその渦に堕ちた典型的な若者だ。老女を殺してはどんどん無感覚に陥って行くだけ。警察の事情聴取で、次々に犯行を自供するその虚ろな瞳が、恐ろしいというより、哀しい。大きな事件をモチーフとしてはいるが、本作はドラマティックなサスペンスではない。都会に暮らす人々を淡々と綴っている。印象に残るシーンがある。幼い息子が眠れないでいると、父親は彼を屋上へ連れて行く。屋上から見るネオンの街並みは、綺麗というよりはむしろどこか侘しい。幼い息子にはこの都会の喧騒が子守唄だ。家族が寄り添っても埋められない孤独。胸の奥が妙にざわつく。パリ、18区、眠れぬ夜、それでも必ず朝は来る・・・。
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