「JESUS」バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト uzさんの映画レビュー(感想・評価)
JESUS
正直、かなり判断に迷う作品でした。
主人公は絵に描いたような悪徳刑事なのだが、しかし何というか、思ったほど悪くない。
勿論法に触れることも教義に反することもやる。
でも例えば、無免許の女性2人に対して直接的な性加害にまで及ぶことはなかった。
賭博で負け込んだ際の立ち振る舞いも含め、“悪”として非常に矮小でみっともないのだ。
それ故か、ほぼずっと悪事を働いているのにどこか滑稽。
シスターと対話を重ねるのかと思ってたら、直接会うのは一度きり。
だがこの数往復の会話で主人公は耐え難い衝撃を受ける。
それにより彼は、幻のイエスに向かって怒りと懺悔をぶち撒ける。
過去が明かされることこそないが、彼自身が堕落から抜け出せない自分を一番憎んでいた。
この一点のみに関しては、誰しもが共感しうる要素を孕んでいたように思う。
作中で説明的な描写は一切ないし、文化にも宗教にも疎い自分に本質は捉えきれない。
描かれた出来事すら正確に拾えてないと思う。
個人的には、「神はただそこに在るのみで、自身も他人も赦しを与えられるのは己のみだ」と受け取った。
主人公が犯人らに与えたそれは、彼自身が語ったように別の悲劇を生む可能性がある。
あれは自己を救うために他者を赦した独善にすぎない。
観る人や時によって、受け止め方の変わる作品だと思う。
顔も隠さず知人を襲い、特徴的な盗品をそのへんの質屋に売り捌く犯人は阿呆過ぎるが。
子役含めドキュメンタリーのように実在感のある演技と、ラストカットの秀逸さが光っていた。
返信ありがとうございます。
「自分の役割をどうしようもなく理解しながら、空中ブランコへの憧れを思い出してしまったピエロのような。」
というyzさんの表現は秀逸ですね。ちょっと感動しました。
僕はこういう「哀しさ」「愚かさ」にめっぽう弱いのです(笑)
違う目線で見ると、そんなクズでも一応は刑事という職に就き、家庭を持ち子供を育てているわけで、これも言ってみれば「誰にでも起こりうる話」だとも取れるかも知れません。どんな人の人生も実は地獄と背中合わせであり、転落するかどうは紙一重なんだと。
例の「イッペイちゃん事件」でそれを強く感じました。
共感とコメントありがとうございました。
まさにuzさんのおっしゃる通りと思います。
悪と言っても非常にスケールの小さい小悪党で何ら見るべきものはない。大した信念があるわけでもなく、これと言った覚悟も見えない。信仰心も曖昧だから最後に若者2人を逃がした時も、LT自身は歯を食いしばった泣き顔で達観した様子も感じられず、どこまで納得した行動だったのかすら大いに疑問です。
つまり何をやるにしても全てが中途半端で何の教訓にも出来ないという、どうしようもなく愚かな男のどうしようもなく愚かな物語なのだと僕は思いました。そのあまりに無価値で哀しい生き方が僕に刺さったという事かも知れません。
この映画をどう感じるかは本当に人それぞれとしか言いようがないでしょうね。
共感ありがとうございます。
仰る事で気になり出した事が、この作品を観て無残な最期を遂げた主人公を信者の人はどう見たのか? 天国に行けて良かったね、それとも善行を積んでも実際は絶望的なのか? 仏教徒ならやや諦めモードな気がします。