泣きぬれた天使
劇場公開日:1949年12月
解説
「しのび泣き」「幻想交響楽」のジャン・ルイ・バローが、「厳窟王」のミシェール・アルファと「海の牙」「傷心の湖」のアンリ・ヴィダルを相手に主演する映画で、マルセル・ラッソー作の戯曲にもとずいて、劇作家アンドレ・オベイが脚色して台詞を書き、古参監督として多作家であるベルトミウが監督に当ったものである。助演は「求婚」「犯罪河岸」のピエール・ランケー、新顔のギャビー・アンドルー、老練のアリス・ティソ、コメディ・フランセーズのイヴ・フュレー等で、撮影はジャン・バシュレ、装置は「弾痕」のレイモン・ネーグルで、音楽は「悪魔が夜来る」のモーリス・ティリエが作曲している。
1942年製作/フランス
原題または英題:L'Ange de la Nuit
劇場公開日:1949年12月
ストーリー
花の都パリは芸術の都でもあり、学問の都でもある。アルバイトをしながら、あるいは学問に、あるいは芸術に身をささげている青年学徒の一グループがあった。彼等は金を出し合ってクラブを作り、夕食を共にして青春をおう歌していた。ジャックは彫刻の才に恵まれ、多幸の将来を夢見ていたが、愛人シモーヌは虚栄心が強く、ジャックが金もうけよりも芸術に心を奪われていることを喜ばなかった。身寄のないジュヌヴィエーヴが、クラブの新入会員に加わった時、心に希望の光を点じ得た感激に、光輝く様ないい顔をしているのを見て、ジャックはそれをスケッチ・ブックに素描した。それを部屋の壁にとめておいたのを見て、シモーヌはしっとしたがジュヌヴィエーヴは最初に彼女に親切を尽したボッブと、互に愛情を感じ合う仲であった。ジュヌヴィエーヴはナイトクラブの花売娘となったので、醉客を警戒してボッブは毎夜迎えに行って、相愛の情は次第に深くなっていった。ナチ・ドイツが巻き起した戦雲はフランスの空にもひろがり、クラブの青年達はみな銃を取って戦線へ向った。女ばかりでさびしくなったクラブに未成年の男学生が二三入って来るころにはジャックの愛人であったシモーヌは、金持の有閑紳士を次々とわたり歩く女となり、クラブには姿も見せなくなった。戦争はフランスに不利で、パリの街路はドイツ兵の軍靴に踏み荒された。ある日クラブにジャックが姿を現わした。黒眼鏡をかけて、ステッキで足もとの階段をさぐりながら。一同は痛ましさに声をのんだ。シモーヌが居らぬ今日、屋根裏のアトリエにジャックの手を引いて登ったのはジュヌヴィエーヴであった。壁には戦前のままジュヌビエーヴの顔のデッサンが張ってあった。アトリエの真下の部屋にいる彼女は、自然ジャックの頼みのつえの役を勤めることとなった。ある日連れだって散歩に出た時、有閑紳士のお供をしているシモーヌと行き違った。盲目の感はすでに鋭くジャックはシモーヌが何をしているかを察知した。悩んでいる彼を力附けたのは、一階の差物師ウールトルーで、彼は第一次大戦で右腕の自由を失った身なので、ジャックも彼の言には肯かざるを得なかった。ジャックは作りかけていたシモーヌの胸像を、ジュヌヴィエーヴのそれに作り変えた。それは秋のサロンに出品され、特選となり、盲目の彫刻家ジャック・マルタンの名は一せいに高まった。ジャックはいつか深くジュヌヴィエーヴを愛する様になっていた。ボッブから何の消息もないのでジュヌヴィエーヴは彼が戦死したものと、あきらめかけていた所だった。ジャックに対する同情も半ば愛にと移って来たのも無理ではなかった。その愛情を胸に感じてか、シャックの仕事は調子附いていった。ところがある日彼は気持が落着かなかった。ボッブが帰って来たのだ。捕虜となって通信が出来なかったとわびながら彼はジュヌヴィエーヴを抱いたが、彼の腕の中の彼女はかつての彼女ではなかった。理由を言えとせまった時、足音が聞え、ジャックが入って来た。盲目の親友がジュヌヴィエーヴを頼りにし切っている姿を、まのあたりにしたボッブは、男として自分が身を引くべきだと思って、忍び足で立去った。ジュヌヴィエーヴは表の歩道に出たボッブの足のあたりに一輪の花を投げたのである。