「断ちがたい家族の絆をリリシズムに載せた名画」鉄道員 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
断ちがたい家族の絆をリリシズムに載せた名画
鉄道機関士アンドレア一家に起こる悲喜交々の出来事を、次男サンドロの目を通して描いた、温かく心満たされるホームドラマ。ピエトロ・ジェルミ監督のネオレアリズモタッチが支える、少年の視点の可愛らしさが前面の、演出の語りの巧さ。長女が死産を経験するクリスマスの夜から翌年のクリスマスまでの1年間の出来事を細密に描く。また、叔父さんになれなかったサンドロが、姉ジュリアと父親の断絶を簡潔に説明する分かり易さが優しい映画。ラストシーンの、父の居ない朝の様子が日常となったセンチメンタルなタッチと、友達に促されて元気よく走りだすサンドロの笑顔。カルロ・ルスティケッリのテーマ曲がアンドレア家族に寄り添う。
酒に溺れる頑固親父を演じるピエトロ・ジェルミの名演。このダメ親父を軸にした脚本が優れている。運転中の投身自殺で狂い始める家族の絆。左遷からストライキ破りになる父の居直りと孤立。そこに、不良な長男のマザコン振りと父に不満を抱えたまま大人の女性に成長した長女。そして、全ての原因が傲慢な父にあろうと慕い続ける次男サンドロの幼さ。大人との約束を破って何度も騒ぎを大きくしてしまうところのユーモアもジェルミ監督の特長だ。
また視点を変えれば、この映画の本当の主役は、ルイザ・デラ・ノーチェが演じた母親に見える。戦後の苦しい生活で稼ぎ頭の夫を支え、子供3人を育て、子供の幸せを願い取り乱すことなく良妻賢母を貫く姿は健気で美しい。賑やかなクリスマス、来客が帰り宴の後のふたりだけの家で夫のセレナーデを聴き、寝入ったと安堵するノーチェの表情に妻であり母の本当の気持ちが表れている。悲哀に沈んだルスティケッリの名曲が余りにも素晴らしいので、一見涙を誘う悲劇映画と判断されがちだが、脚本と演出をよく見れば、生きるために人はどう耐えて人を信じ生きなければならないかの示唆を感じ取れると思う。ジェルミの名演に劣らない、ノーチェの感情を抑えた演技も素晴らしい。
そして、シルバ・コシナの悩ましい曲線美の肢体と美貌が、朽ちることなく永遠にこの映画に刻まれている。エドアルド・ネヴォラのイタリア少年そのままの自然な演技は、映画史に残るもの。家族の断ちがたい絆の光と影を、リリシズムに載せて描いたイタリア映画の名品。