劇場公開日 1975年6月28日

「オールスター・パニック映画の金字塔は、今も色褪せることなく、建築業界の良心に問い続けている。」タワーリング・インフェルノ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0オールスター・パニック映画の金字塔は、今も色褪せることなく、建築業界の良心に問い続けている。

2023年8月7日
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鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭13にて。
ワーナー・ブラザースと20世紀フォックスが共同製作した超大作。1970年代前半にブームとなったパニック映画の頂点に立つ作品だ。

この映画を最初に観たのは子供の頃。テレビやビデオで何回か観てはいるが、新作映画を観るにつけ最新の迫力映像で上塗りされて印象は薄れていた。だが、今回劇場で観た本作のスリルと迫力は何ということか。「手に汗握る」とは、正にこのことだ。
CGもドローンもない時代、セットとミニチュアの合成であれだけの緊迫感と迫力を生み出し、未だに陳腐化していないのは驚きだ。

監督はジョン・ギラーミンだが、アクション・シークェンスの監督はプロデューサーのアーウィン・アレンが兼務している。ほぼ全編がアクション・シークェンスではないかと思うのだが、ほとんどがアーウィン・アレンの手によるということだろうか?

ワーナーのシンボル映像もFOXのシンボル映像もなく、映画は幕を開けた。
ジョン・ウィリアムズのオーケストラに乗って、サンフランシスコの上空を飛ぶ建築会社のヘリコプターをカメラは追う。港を越え大都会の上空を回遊すると、そこにそびえ立つタワーが現れるのがオープニングシーンだ。

主役は二人。地上138階の超々高層ビルの設計者をポール・ニューマン、消防隊の隊長をスティーブ・マックィーンが演じる。
そして、『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイが、『明日に向かって撃て』のポール・ニューマンの恋人役。

助演の面々もオールスターだ。
タップを踏まないフレッド・アステア。
アステアの相手役にジェニファー・ジョーンズ。
1940〜50年代のスターどうしのカップルだ。
ビルのオーナーはウィリアム・ホールデン。
タワーの警備主任はO・J・シンプソン。
死を覚悟して、せめて子供に愛していると伝えたいと望む市長の妻役シーラ・マシューズは、後のアーウィン・アレンの奥様で、『ポセイドン・アドベンチャー』にも出演していた。

意外とカッコよかったのがロバート・ワグナーで、愛人を安心させるために繋がらない電話の受話器に向かって会話をする。色男なのに男気を見せる。
上院議員のロバート・ヴォーンはパーティーの主賓で、我先に助かろうとするキャラクターかと思いきや、建築会社の社長を責め立てたりもせず、最後まで人命救助に協力する。
悪役を一手に引き受けたのはリチャード・チェンバレンで、愚かな男を憎々しく演じているが、大企業オーナーの娘婿という立場の悲哀も見せている。

日本の一級建築士がマンションやホテルの耐震構造計算書を偽造していた事件は、まだ発覚から20年も経っていない最近のニュースだ。
さらには、工期短縮やコスト削減を目的に設計書どおりの施工が行われていなかった建物が続々と発覚していて、中には25階を越える高層ビルもある。現在進行形の問題なのだ。

この映画の最後にスティーブ・マックィーンとポール・ニューマンの間で交わされる会話の教訓が活かされることはなかったのだ。

この映画は、人命救助に自らの命をかける消防士たちに捧げられている。
本作と『バックドラフト』をラインナップした午前十時の映画祭13の構成に拍手!

kazz