劇場公開日 1954年10月5日

「社会のために使って欲しかった夫の危機管理能力」ダイヤルMを廻せ! KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0社会のために使って欲しかった夫の危機管理能力

2021年7月17日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

久々のこの作品、大筋は知っていたものの、
警察や推理作家がどう真相に迫るのか等、
改めて興味深く観ることが出来、
本格サスペンスを満喫させていただいた。

スティック、手紙、ストッキング、ハサミ、
そして鍵とハンドバッグ
等の小物類の伏線利用も秀逸だし、
推理作家の「現実は小説のようにうまく
運ばない…ブリッジと同じでいつもバカな
失敗に気づかない」の発言も同様だ。

ただ、幾つかの疑問が無いわけではない。

まず、就寝中を狙うのでは無く、
受話器を取らせて後ろから襲うことに
こだわる位なら、
実行犯が入室した時に妻が寝室にいて
リビングにはいないと
どう確信する計画だったのか?
ドア下の明かり漏れで判断するとしても、
もし灯りが点いていたら計画を
どうするつもりだったのか、
との話の展開の検証は出来ていたのか?

また、夫が妻に電話して長く声を
出さなかったのに、
実行犯が死んだ後に妻が受話器を手にして
電話してきていたのは夫だったことが判り、
その時には混乱して分からなかったろうが、
彼女も後々疑念を持ったであろうことに
何も触れていないことの適正性は?

更に、事件は夫と実行犯が二人で計画した
ものと証言すべきとの、
ビリー・ワイルダーの「情婦」を
思い出させるような推理作家の提案は、
夫の罪は妻よりは軽くなるからとの、
一分の夫婦愛に期待した罪の肩代わりを、
と言っているようなものだが、
この段階では推理作家は
まだ夫を犯人と想定していたとも思えず、
愛する人を救いたい一念とはいえ、
妻を奪おうとしている立場の人間としては
都合の良すぎる話の設定ではなかったか?

全ては作品を盛り上げるための
手法に過ぎないのかもしれないが、
いつもヒッチコック作品に共通すること
だが、若干の強引さを
ここでも感じてしまった。

しかし、そんな疑念をも超えて魅せるのが
ヒッチコック監督の上手さなのだろう。

それにしてもこの夫、
鍵についての失敗こそあれど、
鍵を階段を隠す際の機転や、
事件後のストッキングや手紙の処理、
警察への連絡の遅れの妻との口合わせ
の処理など、
更には、あたかも妻を庇うかのように見せて
逆に追い込んでいく立振舞は
見事と言うしかない。

自分の想定した設定から
現実が離れていってしまっても、
危機管理能力が相当に高いのか、
それを物ともせずに
自分の想定範囲に戻したり、
別の形での妻の犯罪の方向に導いたりと、
類い稀なる能力の高さを見せた人物だった
のには改めて驚かされた。

思わず、この類い稀なる“危機管理能力”を
社会のために使って欲しかったと
思ってしまったのだが😊

KENZO一級建築士事務所
マサシさんのコメント
2023年9月10日

まさにその通りですね。
つまり、台本のト書を見てみたいくらいだと思いました。

マサシ