劇場公開日 2019年6月7日

「S&Gの名曲をバックに、時代の気分が描かれる。」卒業(1967) sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 S&Gの名曲をバックに、時代の気分が描かれる。

2025年10月9日
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鑑賞方法:VOD

ベンジャミンが抱える、将来に対する漠然とした不安。その隙間に忍び込んできたロビンソン夫人と不倫を重ね、その娘エイレンも巻き込んだドロドロ生活の果てに、曲がりなりにも、自分なりの一歩を踏み出していくというストーリー。

卒業祝いに親から買ってもらったピカピカのアルファロメオは、だんだんホコリまみれになり、道半ばでガス欠になって止まる。
そこからは、自分の足で走りだし、最後にはエイレンをさらってバスで旅立つベンジャミン。
上流階級からの見事な転落が象徴的に描かれるが、ラストシーンのベンジャミンは満足げ。
対して、衝動的についてきたエイレンは、はじめこそアドレナリン出まくりの表情だったが、ベンジャミンを見つめる横顔は、次第に冷静なものになっていき、映画はそのまま暗転をむかえる。

ベンジャミンもエイレンも、戦争を知らない戦後生まれ。
戦勝国の平和な世界で、何の不自由もなく、大人の言うことを素直に聞いてきた2人が落ち入った「遅ればせながらにやって来たアイデンティティ・クライシス」といった感じだろうか。

エイレンにフラれて、1人ベンジャミンが残る動物園で、スカボローフェアをバックに映し出される猿の檻。
「僕たちは、この檻の中の猿たちと何が違うのか」なんて言いた気な、思わせぶりなショットも挟まるけれど、なんか結局描かれているのは、「持てる者たちの贅沢な悩み」という気がしないでもない。
でも、当時はそうした気分にリアリティがあったのだろう。

だから、バスに乗って走り出した2人の行く末は、決して幸せなものにはならないだろうと思いながら、案外当人たちは、ヒッピームーブメントにどっぷりハマったり、雨の降る日は仕事もせずにキャベツばかりをかじっている「四畳半フォークのような人生」になったりしながらも、楽しく暮らすのかもなぁ…なんて考えた。

sow_miya
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