「マカロニウエスタンの金字塔であり、絶対に観ていなければならない作品」続・荒野の用心棒 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
マカロニウエスタンの金字塔であり、絶対に観ていなければならない作品
続と付いていますが、クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」とは全くの無関係
用心棒ですら内容にはなんら関わりありません
「夕陽のガンマン」と「続夕陽のガンマン」も続編ではありませんが、こちらは主演も監督までも異なるのです
しかし本作は、マカロニウエスタンの金字塔であり、絶対に観ていなければならない作品なのです
引き摺られる棺桶、乱射される機関銃、泥まみれの街道街、耳を切り取り口に入れる残虐シーン
そしてあの耳に残る主題歌
フランコ・ネロの印象的な青い目の色
これらは余りにも有名です
絶対に観なければならないマカロニウエスタンを時系列にするとこうなります
1964年9月、荒野の用心棒
1965年8月、荒野の1ドル銀貨
1965年12月、夕陽のガンマン
1966年4月、続・荒野の用心棒(本作)
1966年12月、続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
黒澤明監督の「七人の侍」は1954年4月公開
米国では1956年7月の公開
イタリアの方が早く1954年8月公開
そして米国映画「荒野の七人」は、1960年10月米国で公開されています
同じく黒澤明監督の「用心棒」は1961年4月公開
イタリアでは同年8月の公開でした
これからインスピレーションを得てイタリアで西部劇に翻案してセルジオ・レオーネが映画にしたのがマカロニウエスタンの始まりです
本作のセルジオ・コルブッチ監督も日本の時代劇に影響を受けたと公言していたようです
とは言えもはや完全に別物
全く新しい価値を創造しているといえます
原題はジャンゴ
本作が大ヒットしたので、世界中にジャンゴの名前を冠する映画が雨後の竹の子のように世界中で無数に撮られたようです
その尻尾に、タランティーノ監督の2012年の作品「ジャンゴ 繋がれざる者」が連なっているのですから、半世紀に近いロングパスになっているのです
ジャンゴの名前は、世界的ジャズギタリスト、伝説の名手ジャンゴ・ラインハルトに由来してのこと
その本名はジャンであり、ジャンゴは渾名
意味はロマ語で「私は目覚める」という意味だそうで、実は両親は放浪の民ロマ族の旅芸人の一座だったといいます
だから本作の主人公もロマ系である設定なのかも知れません
そうであるならば彼もまたヨーロッパでは、メキシコ人と同じく差別される側であった訳です
ジャンゴ・ラインハルトは18歳の時に火事で大火傷を負い、ギター奏者には致命的な左手の薬指と小指に障害が残りました
しかし、彼は鍛錬を続け独自の奏法を編み出して行ったのです
ジャンゴが手を潰されるのは、そこから来ているように思えます
そして悪役のジャクソン少佐は人種差別主義者として設定されています
手下は大手の赤いスカーフを覆面にして襲撃をするのです
スカーフには両目の所に穴が開けられており、KKK団を連想させるものにされています
この設定にタランティーノ監督は着目して2012年のジャンゴを撮ったのだと思います
そして墓の十字架に刻まれてあったのはメルセデス・ゼロという主人公が愛したただ一人の女性の名でした
ドイツ系という設定になっているようです
本作はマカロニウエスタンでは珍しい純愛を貫いた物語でもありました
この純愛設定がタランティーノ版に受け継がれている訳です
果たしてそれだけなのでしょうか?
何の為にジャンゴは戦ったのでしょうか?
何の為に棺桶を引き摺ってあの街道街に帰ってきたでしょうか?
もちろんただ一人愛した恋人の復讐です
それは女性を人間として扱わず、快楽の道具としている連中に復讐することです
そして同じ人間であるにも関わらず、メキシコ人を差別する胸糞悪い連中にも鉄槌を喰らわせる為だったのです
そしてロマ族の名前を持つ自身への特殊な視線への戦い
つまり差別への戦いであったのです
今回観て、そこに初めて気づく事ができました
なぜジャンゴが棺桶を引きずるのか?
それは自由の国アメリカに於いてもなお蔑視の視線をむける連中への怒りを封印した象徴に外ならないからです
だから機関銃は棺桶の中から登場するのです
タランティーノは本作のこの裏のテーマ性を読み取っていたのです
タランティーノ版のジャンゴはそれこそが表のテーマに浮上してメインとなっていました
好きで好きで何度も観ていても、ただ単に面白い!、格好いい!それだけの印象でしかありませんでした
それが、タランティーノ監督版のジャンゴによって、自分もこのような深いテーマが奥底に沈んでいたことに気づくまでようやくたどり着くことができました
タランティーノ監督に尊敬と感謝です
マカロニウエスタンを観るなら、絶対に外せない作品です