劇場公開日 1956年8月23日

「『いつかはいい土地になる』」捜索者 komasaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5『いつかはいい土地になる』

2023年9月2日
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怖い

兄夫婦と甥が殺され姪二人がさらわれた。しかも、劇中の様子から兄嫁と主人公のイーサンは過去に思い合っていた時期が有ったのだろう。そんな相手が人に見せられないような酷い姿で殺されていたのだから、抑えきれない憎しみが沸いて当然のはずだ。

しかし、兄の家が襲われるかもしれないと分かった時、何が起こるか想像できたにも関わらず、イーサンは非常に冷静な対応をする。そこに大きな違和感を感じた。これは、同じようなことを何度も経験した者の対応なのではないか。兄家族の悲劇はコマンチ族を殲滅するマシーンに闘う理由が一つ付け足されただけなのではないか。

後のシーンで、イーサンはコマンチ族に染まったデビーを殺そうとする。それを観て、デビーの姉ルーシーを殺したのも実はイーサンではないかと勘ぐってしまった。(ここは抵抗するルーシーをコマンチ族が殺したと考えるのが順当か)

しかし、それ以上に恐ろしく感じたのは元教師であるローリーの母親の『いつかはいい土地になる』という一言。そこには、ここは自分たちが神から与えられた土地であり、コマンチ族をはじめとするインディアンは根絶されるべきであるという意味に思える。

これは、兄家族の仇討ちを描いた勧善懲悪映画ではない。どちらの文化が生き残るかをかけ、実際に存在した闘いの一場面を白人側から見た記録映画なのだ。差別などという甘い言葉でなく、被害者加害者なんて段階でもなく、互いに互いの存在を認めていないのだ。

ラストシーン、デビーを迎える温かい家庭と、静かに去るイーサンの対比。凄惨な過去を忘れつつも、奥底にくすぶるものを抱えた現代社会を表現したように思えた。

それにしても、ジョン・ウェインは本当にこの役がよく似合う。

komasa