「実は二人とも孤独」セント・オブ・ウーマン 夢の香り Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
実は二人とも孤独
総合:70点
ストーリー: 65
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 70
音楽: 65
軍隊で左遷されるという挫折を経験してやる気を失うと、それが遠因で視力も失ったアル・パチーノ演じるフランク・スレード中佐。仕事にのみ誇りと生甲斐を持っていて生きてきたのにそれを失い、元々人当たりの悪い性格だから友人もいなければ暖かい家族もいない。そんな彼がたいして金持ちとも思えないのに、何故いきなりニューヨークに行って豪華ホテルにレストランに女にと金を存分に使うのかと思ったが、途中ではっと気がつかされる。そうか、彼はすっかり自分の人生に絶望しているのだ。最後にやりたいことをやるための、これは死への旅立ちか。
そんな彼が死を決意してしまえば、もう怖いものなど何もない。過去に何があったか知らないし何故今そうする必要があるのかもわからないが、折り合いの悪い兄の家族をリムジンで訪問してわざと挑発する。フェラーリ・モンディアルを暴走させる。有名な場面となった、見知らぬ女にもタンゴを申し込み、そして踊る。だが夢の時間もあれば現実に戻ることもある。いきなり落ち込み、死を意識する。
しかしながら彼の過去が詳しく描かれていないので、彼の絶望と苦悩が直接伝わっては来ない。状況を想像すれば、彼が死にたがる理由が推測できるだけ。だからそれほどこの前半のニューヨーク編の物語が素晴らしいとは思わない。でもこの作品に限ったことではないが、いい演技だとは思いました。過去の演技も含めて、ようやくですが彼がオスカー獲って良かった。
クリス・オドネル演じるチャーリーも、実は金持ちの子息ばかりの中で、どことなく溶け込めず疎外感を感じていたに違いない。それでも人のいい彼が、弱い立場のまま結局つまはじきにされてしまうという危機を救おうと押しかけてきた中佐。
偶然の短い出会いだけれど、結局この孤独な二人がお互いを初めての本当の友人として必要としたのでしょう。最後に彼が現れてきたことで物語は予定調和かなと思ったが、彼の演説と流れを変えていく過程が良かったので、それで盛り上がりに欠けるということはない。むしろそこが一番いい場面だった。孤立無援のチャーリーはやっと支持してくれる人を得た。大袈裟に言えば敵地である場所に単独で乗り込んで、それでもこういうふうに人を動かす力を持っているのは素晴らしい。この出会いがお互いを救った。