「東部戦線は何処にでもある。」戦争のはらわた 傘さんの映画レビュー(感想・評価)
東部戦線は何処にでもある。
ファシズム対ファシズムの戦い。
降伏しても嬲り殺しにされるだけ
皆殺しにするか皆殺しにされるかだけの戦争。
国家利益ではなく憎悪を理由に相手を皆殺しにしようとし
1000万以上の人命が消えた人類史上最悪の戦争が
独ソ戦であり映画の舞台だ。
連日、当たり前のように人が泥に埋まって行く地獄に
フランスから貴族のお坊ちゃんストランスキーが、軍人の名誉である鉄十字勲章を胸に飾る為に現れた事で物語が動きだす。
着任したストランスキーは、さっそく捕虜を連れていた主人公スタイナーに捕虜殺害を命じるが拒絶されてしまう。
階級こそ下だがスタイナーは歴戦の兵士であり
何よりストランスキーが授章を願ってやまない鉄十字勲章持ちだ。
ストランスキーの上官もスタイナーを買っており
迂闊に処罰も出来ない。
スタイナーと言う男
上官と部下の信頼厚く、最前線を任され
鉄十字勲章、歩兵突撃勲章、対戦車撃破勲章
クリミア防衛勲章、戦傷勲章
勲章総ナメ状態の彼こそがストランスキーの理想像である…に関わらず
「勲章が欲しければやるよ」
と、自らの鉄十字勲章を投げてよこす様な男だ。
戦争に疲れはてたスタイナーから見れば勲章なんぞ失った仲間と引き換えに貰った鉄の板に過ぎないのだが
貴族出身で戦争を知らないストランスキーには不遜な男にしか見えない。
俺は馬鹿にされている!!
ストランスキーの中でドロドロとした憎悪が渦巻く…渦巻くのだ…
しかし、彼を見返せる才覚はストランスキーには無い。
彼が持つ貴族の身分は全く役には立たない。
遂にストランスキーは卑劣な手段を使い戦死した他人の功績を奪う事で鉄十字勲章授章の権利を得る。
そして、自分が有する貴族のツテを使い
授章と同時にフランスに逃げ帰る算段を得るのだったが…
これは憎悪の映画だ。
全世界が憎悪に突き押されていた時代に
最も救いの無かった大戦争で
たった2人の男が互いを殺すほど憎み合う映画だ。
戦争などしなくても人は簡単に憎悪する。
階級、人種、宗教、家柄、美貌、才覚
格差と対立の構造は何処にでもあり
誰でも相手を殺すほど恨む可能性はある。
だから、あの男の敗北を喜んでいてはならない。
彼を悩ましていたメス犬が盛り出すのは自分の前かも知れないからだ。