劇場公開日 1957年12月25日

「戦争の矛盾、軍人の矛盾を突いた痛烈な皮肉アクション巨編!」戦場にかける橋 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 戦争の矛盾、軍人の矛盾を突いた痛烈な皮肉アクション巨編!

2025年12月10日
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鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭14にて。

第二次世界大戦下、タイとビルマの国境に近い日本軍の捕虜収容所を舞台とした、史実を引用したフィクション。
ピエール・ブールによる原作小説は未読なので、原作で脚色されていたのか、映画化に際して脚色されたのかは知らないが、おそらく両方だろう。

捕虜たちに橋梁建設を強いる日本軍の大佐と、捕虜のイギリス軍大佐の対立から物語は始まり、アメリカ人中佐の脱走、イギリス軍捕虜たちによる橋梁工事などが描かれ、連合国軍による橋梁の破壊作戦へと進展していく。

まず、アバンタイトルが圧倒的だ。
空撮からの横移動撮影でジャングルの大自然を示し、鉄道工事の様子と十字架が立ち並ぶおぞましい風景を見せていく。
これから始まる物語を想像させるに充分な導入部だ。
メイン・タイトルが表示された後、死んだ仲間を埋葬しているアメリカ軍のシアーズ中佐(ウィリアム・ホールデン)が軽口を言い、この捕虜収容所の強制労働が迷走状態であることを示唆する。
そして、口笛でクワイ河マーチを奏でながらイギリス軍捕虜たちが行進してくる有名な場面が展開する。

日本軍の斉藤大佐(早川雪洲)と、イギリス軍捕虜たちの指揮官ニコルソン大佐(アレック・ギネス)の人心掌握術の違いが、辛辣なまでに描かれる。
そして、ニコルソンは見事に橋を完成させ、斉藤はイギリス軍捕虜たちを労うことを学習するのだった。

クリプトン軍医(ジェームズ・ドナルド)は、橋梁建設への協力はイギリス軍への背任行為ではないかと意見するが、ニコルソンは捕虜となったイギリス軍人たちの士気を回復させ、イギリスの高い技術を示すことに意義があると主張する。
捕虜には戦況を後方撹乱する義務があり、ニコルソンはその機会を虎視眈々と窺っているようでもあり、斉藤と共感し合っているようでもある。
アレック・ギネスの飄々とした演技が、ニコルソンの真意を見せてくれない。

一方、命からがら脱走を果たしたシアーズは、実は捕虜収容所での士官待遇を得るために死んだ少佐の軍服を着て身分を偽装していた。
イギリス軍の現地の病院に収容されたシアーズは「戦場であっても、軍人であっても人間らしく生きる」と言う。
だがしかし、橋梁破壊作戦に参加すれば、身分詐称の罪を問わず少佐の地位を約束するというアメリカ海軍からの指令が下り、脱出した路を戻らなければならないという皮肉な目にあうのだ。
彼ら破壊工作隊に現地の女性たちが荷役として付き添う。ここに、デビッド・リーンの東洋人女性好きが現れている。タイ人女性だろうか、彼女たちは確かに愛くるしく、献身的に西洋の軍人に尽くす健気さがある。若い軍人は明らかにその魅力にときめきを示していた。

橋を爆破する作戦のクライマックスは、負傷して身動きができない指揮官、若い兵士を従えて実行をリードしなければならないシアーズ、彼らを息を呑んで見守る案内人と共の女性たち、その対岸で橋の点検に余念がないニコルソンと、軍用列車の迎え入れに神経を尖らせている斉藤らの様子を、刻々と映し出す緊迫のサスペンスだ。
当然、想定外のトラブルが起きる。
そして最後の最後まで、ニコルソンの考えは分からない。
遂に、意表を突いた展開で爆破される橋梁とそこに突入する列車は、敵・味方が混沌となった愚かしい殺し合いを目の当たりにした悲鳴のように咆哮をあげるのだ。

kazz
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