「隠れた名作の007」女王陛下の007 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
隠れた名作の007
シリーズ6作目。1969年の作品。
前作でショーン・コネリーが降板した事により、2代目ボンドが登場。
演じるは、ジョージ・レーゼンビー!
…誰?
そう言うのも無理はない。何せ本作一回きり。
当時は不評で、興行的にもショーン・ボンドより落ち込んだ。その為次作でショーン・コネリーが一回だけ復帰し、レーゼンビーが再登板する事なく、3代目へ…。
まあ確かに、ムンムンな男性フェロモン溢れるショーン・ボンドと比べると申し訳ないが、圧倒的に印象薄い。特筆すべき魅力は?…と聞かれても…。
スパイを辞めたショーン・コネリーがその後大スターになったのに、こちらは役者として大成しなかったのも何となく…。調べてみたら、その後出演した作品はB級ばかり…。
まさに“不運なボンド”。
しかし、作品としては決して駄作ではなく、寧ろショーン・ボンドとタメを張るくらい面白い!
ボンドは変わったが、話的には一応続き。
逃げたブロフェルドを追うボンド。遂にその所在地を突き止め、変装し正体を偽って近付く。
アルプス山脈が展望出来るスイスの山頂の秘密基地で、表向きはアレルギー療養所、実際は恐ろしい殺人ウィルスを世界中にバラまく計画を立てていた…!
引き続き、スペクターの陰謀を阻止する。そして、ブロフェルドと直接対決。
ブロフェルドも前作のようにふんぞり返ってるのではなく、今回は自らも行動。
前作のドナルド・プレザンスの続投でないのが残念だが、今回のテリー・サヴァラスはより知的なブロフェルド像。
そんなブロフェルド×スペクターとの闘いは、ファンの間では語り草。
中盤からクライマックスにかけて繰り広げられる雪山アクションの数々!
スキーやボブスレーを活かした迫力のアクション! さながら、冬季オリンピック・アクション…!?
特にスキーによるチェイス・シーンは今作のアクション・シーンでも最大の見せ場で、手に汗握る。
スタントマンに怪我人続出、死者も出たほどで、当時としてはシリーズで最も激しいアクションだった事が窺い知れる。
雪山アクションお馴染みの雪崩、クライマックスの基地襲撃、ボンドとブロフェルドの直接対決のボブスレー・アクションもスリリング!
2代目就任したばかりだからか(?)、幾度もピンチに陥るボンド。
時に窮地を救い、そして出会ったのが、運命のボンドガール。
その名は、トレーシー。
出会ったのは、とある海岸。悪漢に襲われている所を助けるが、彼女は車で走り去って行ってしまう。
再会は、ポルトガル。
美しく、度胸もあって勝ち気な性格のトレーシーにボンドは興味を抱く。
トレーシーもまた普通の男とは違う魅力のボンドが気になり始める。
彼女はヨーロッパの犯罪組織の首領の娘。
ブロフェルドの所在地を掴めたのもこの首領の情報提供あっての事で、その情報提供と引き換えに、手を焼くじゃじゃ馬娘と結婚して欲しいと頼まれる。
何つー交換条件!?
女を落とすならピカイチのボンドだからか…?
それでなくとも惹かれ合う二人。ベッドインもするが、果たしてこれはいつもの事か、それとも…?
ブロフェルドの基地に囚われたボンドは隙を付いて脱出。激しいスキー・チェイスの末、麓の町でテレサと三度再会。
追っ手から逃れる中、二人は真剣に愛し合うようになっていた。
ボンドの窮地を救うトレーシー。
そのトレーシーもブロフェルドに捕まり、今度はボンドが救出に向かう…。
スパイ・アクションの中に織り込まれたボンドとトレーシーの大人のラブロマンスこそ、本作のメインと言って過言ではない。
美しく逞しいトレーシー役のダイアナ・リグが、存在感薄(失礼!)のレーゼンビーを持って有り余る。
ただ華を添えるセクシーや守られる存在だけじゃなく、危険なアクション・シーンにも挑み、敵とも闘い、昨今のボンドガールの先駆けとも言えよう。
監督のピーター・ハントはシリーズで編集や第2班監督を担当し、前半のドラマ部分は多少退屈でスローテンポだが、アクション・シーンでは手腕を発揮。
ボンド役者が交代した事により、自虐ネタやこれまでの小道具やタイトルバックもお楽しみ。
でも一番ウケたのは、ある計画の為にブロフェルドの基地に集められた美女たち。某お笑い芸人なら、一人一人と多目的トイレへまっしぐら!
激闘の末、計画を未然に防ぐ。宿敵ブロフェルドも倒したボンド。
トレーシーも救出。
これまでならスカッと楽しく、ボンドガールと最後にもう一度お約束のお戯れのハッピーエンドで終わるのだが…。
ボンドとトレーシーは結婚。前作の偽装などではなく、正真正銘の“ボンド夫妻”に。
皆が祝福。マネーペニーも祝福か、それともボンドを愛していたからか、一筋の涙を…。
ウェディングカーを走らす。
その先は、幸せの道。
世界は二人のもの。
それは、一瞬だった。
生きていたブロフェルドが車から銃で襲撃。
トレーシーは…。
永遠の眠りについた愛妻を抱き締めるボンド。
その瞳から、初めて見たボンドの涙…。
007シリーズ史上、最も悲しいエンディング。
この悲劇と、本作一回限りの不運が不思議にもリンク。
もしこれがショーン・コネリーだったら、こうはいかなかっただろう。
このラストシーンの為に、ジョージ・レーゼンビーはキャスティングされたと言ってもいいほど。
当時は不評でも、今では再評価。
雪山アクション、悲劇的なドラマ性、実は魅力あるジョージ・ボンド…。
“隠れた名作の007”なのである。
確かにこんなに悲しい終わり方も珍しいですよね。本当にビックリしました。「カジノ・ロワイヤル」も悲劇でしたが、最後の最後はビシッとしてましたし。
この切ないエンディングが一作だけでもジョージ・レーゼンビーの名を007として残しているんでしょうね。