劇場公開日 1993年2月11日

「IT時代の到来を予見した先見性に驚かされる」スニーカーズ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0IT時代の到来を予見した先見性に驚かされる

2025年4月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

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【イントロダクション】
警備システムの不備を証明するハイテク集団が、国家安全保障局(NSA)からの要請により天才数学者が作り出した“黒い箱”を盗み出す。だが、彼らがその正体を知った時、背後に潜む巨大な陰謀が明らかになっていく。
主演は『明日に向って撃て!』(1969)、『スティング』(1973)のロバート・レッドフォード。監督・脚本は、フィル・アルデン・ロビンソン。その他脚本に、『ウォー・ゲーム』(1983)のローレンス・ラスカーとウォルター・F・パークス。
sneakは“こそこそ歩”の意。 靴音のしないところから呼ばれるようになった。

【ストーリー】
1960年代のある冬。大学生のマーティンと親友のコズモは、コンピューターをハッキングして共和党の資金を寄付に回すイタズラをしていた。マーティンが買い出しに出た際、コズモは駆け付けた警官達に捕えられ、マーティンは彼を見捨てて行方を晦ました。

25年後、マーティン・ビショップ(ロバート・レッドフォード)はハイテク集団“スニーカーズ”を率いていた。彼らは、企業や銀行からの依頼を受けて、警備システムの盲点を指摘するのだ。
チームメンバーは、元CIA捜査官の常識人クリース(シドニー・ポワチエ)、コンピューターオタクの“マザー”(ダン・エイクロイド)、最年少のカール(リバー・フェニックス)、盲目のハッカー“ホイッスラー”(デヴィッド・ストラザーン)と、皆個性派揃い。

そんな彼らの前に、国家安全保障局(NSA)の職員を名乗る2人組の男達から依頼が入る。その内容は、ロシアの天才数学者ジャネックが発明した“黒い箱”と呼ばれる装置を盗み出す事だった。
マーティンは断ろうとするが、自分の正体が大学時代の一件から逃亡中の“マーティン・ブライス”である事を知っていると脅され、また報酬額も17万5,000ドルと高額であった事から引き受けざるを得なくなる。

マーティンは数学に詳しい人物として、かつての恋人であるリズ(メアリー・マクドネル)を訪ね、ジャネックの講演会に参加する。講演後のパーティー会場で、マーティンは現在は文化外交官として活躍するグレッグと再会する。

ジャネックの事務所を盗聴・盗撮し、“黒い箱”の存在を確認したマーティン達は、無事に“黒い箱”を盗み出す。

祝勝会を開くマーティン達は、ホイッスラーの思い付きでNSAとの取引前に“黒い箱”にアクセスしてみる。すると、その正体はどんなシステムにもアクセス出来る「究極の暗号解読機(ハッキングシステム)」だった。世界を覆す程の発明を前に、マーティン達は早く取引を済ませようとする。

翌朝、NSA職員との取引場所に向かったマーティンとクリース。しかし、新聞の記事にジャネックの死が報じられている事に気付いたクリースは、彼らがNSAではない事を察知し、マーティンと共に逃亡する。

身の危険を感じたマーティンは、グレッグに彼らの正体に心当たりはないか尋ねに行く。すると、2人組の1人は元NSA職員ウォーレスだと判明する。しかし、トンネル内で偽のFBI捜査官に扮したウォーレス達から襲撃を受け、グレッグは殺害され、マーティンは拉致されてしまう。

マーティンが目覚めると、かつての親友であり獄中死したとされていたコズモ(ベン・キングズレー)が現れる。

【感想】
IT革命前夜の1990年代前半に、“ハッキング”の危険性や“情報戦時代”の到来を説いた本作の先見の明には驚かされる。
その背景には、脚本のローレンス・ラスカーとウォルター・F・パークスが、過去作である『ウォー・ゲーム』の脚本執筆段階から行なってきた入念なリサーチが活きているという。

個性派揃いのメンバー設定が楽しい。特に、盲目のホイッスラーの活躍が素晴らしく、ハンディキャップを背負っている人物をここまで魅力的に描いているというのは、IT時代への先見性と同じくらい凄い事だと思う。
本作の翌年に急逝したリバー・フェニックスの勇姿を見られるのも嬉しい。豪華キャスト陣の中、その若さで混じる彼の凄さが際立つ。
また、窮地に立たされたマーティン達が、リズの自宅に避難して即席の事務所を構える件の盛り上がりも良かった。

その反面、コメディチックな作風とはいえ、作品内のツッコミ所の多さは、90年代ながら80年代作品のような緩さを感じさせる。
世界情勢を破滅させられる程の装置を、恋人が自由に出入り出来る程度のオフィスに置きっ放しにしているジャネック。
厳重な警備システムを敷いているとはいえ、コズモが黒い箱をオフィスのテーブルの上に置いたままというのは笑える。そもそも、コズモも天才ハッカーなのだから、黒い箱を入手出来たのなら早々に自らの理想である「富裕層の所有記録を抹消し、世界を平等にする」という目的の為に動き出すべきだろう。
この時代では、まさか世界を覆す程の発明品がそんな場所にあるわけないと思うのが普通なのかもしれないが。

終盤はコズモから装置を盗み出す為、マーティン達がコズモの会社に侵入計画を企てる“ゆるゆる『ミッション:インポッシブル』”が展開される。割と行き当たりばったりな展開は笑えるが、昨今のシリアスなスパイ映画を目の当たりにしていると、どうしても緊張感のなさがネックとなる。この後半の失速さえなければ、更に評価する事も出来たのだが。

とはいえ、全編に渡って展開されるコミカルなやり取り、システムのチップをこっそり盗んでいたマーティンが、大学時代のように再び共和党資金を寄付に回すという粋なラストに確かな脚本力も見る。

【総評】
IT時代を見越した先見性、豪華キャスト陣の共演は素晴らしい。反面、コメディチックな緩い作風による後半の失速具合は目に付く。
ただ、そうしたマイナスポイントすら“この時代ならでは”という一種の魅力に繋がっており、独特な雰囲気を醸し出している。

緋里阿 純