「大人になって気付く、少年時代の輝き」スタンド・バイ・ミー といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
大人になって気付く、少年時代の輝き
「名作映画」として知らない人はいないんじゃないかとすら思える本作。私は映画好きを自称しているのに実は今まで観たことがありませんでした。
色んなところでレビューや評論を見掛ける機会が多いんですが、男性と女性で評価が違うような気がします。一歩間違えば命を落とすような合理性の欠片も無いスリルを求めるのは少年特有のものなんでしょうか。男性は昔を懐かしみながら鑑賞できますし、女性は「男ってバカだね」と笑いながら観るのがいいかもしれません。
私は個人的には結構楽しめましたし、「これは名作と呼ばれるのも理解できる」と思ったんですけど、一方で「ここまで評価される作品なんだろうか」と思ったのも事実。ぶっちゃけ「オッサンの過去の武勇伝聞かされてる」って内容の映画なんで、もしも主人公の少年たちに感情移入できなかった場合はあまり楽しめない映画かもしれないですね。
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アメリカの片田舎に住む4人の仲良し少年グループ。それぞれが複雑な家庭環境を持っていて、現状に不満を感じている。ある日、町から30キロほど離れた場所に列車に轢かれた死体があるとの噂を聞きつける。行方不明になっている少年の死体ではないかと考えた彼らは、死体の発見者として有名になるために、線路伝いに歩いて死体を探す冒険に出掛けるのだった。
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「死体を探してヒーローになる」という現代日本ではまずあり得ない理由で冒険に出掛ける仲良し少年グループの物語。グループのメンバーでもあるゴーディが大人になって語り手として登場し、映画全体がゴーディが過去を振り返って記した物語であるという体裁を取っています。
古い映画ですしアメリカの話なので、当然現代の価値観や情勢とは異なるということを加味しても、正直登場人物たちの言動に対して「なんで?」って思う場面は多々あると思います。
もちろんしっかり考察すればちゃんと理由があるのかもしれませんが、ああいうワケ分からない行動を取ってしまうのは「思春期男子特有の万能感や自己顕示欲」によるものだと割り切って、「思春期の男子ってこうだよね」って考えながら観た方がいいかもかもしれません。
少年たちの小さな大冒険と、永遠に続くと信じて疑わない友情関係。自分の幼少期を思い出して、甘酸っぱいようなほろ苦いような気分になれます。
この作品は主人公たちの仲良し少年グループと、町の不良グループが対比的に描かれているのが特徴的です。仲良く上下関係のない少年グループに対して、絶対的ボスのエースが率いる不良グループ。そして一日掛けて歩いて死体を探した少年グループに対して、車であっという間に死体の場所にたどりついた不良グループ。
この二つのグループの対比構造は「子供と大人」のメタファーのように感じられますね。死体の現場で少年グループのテディが不良グループのボスであるエースに対して「車で来るなんてズルい」と言うシーンがありますよね。誰もが子供時代に大人に対して「大人はズルい」と感じたことがあると思いますが、そういう子供時代の逆恨みに近い「大人への怒り」が表れた台詞だったと思います。個人的に大好きな台詞です。
少し疑問に感じたんですけど、この作品は大人になって小説家になったゴーディが幼少期を思い出して記した小説・子供時代の冒険の回想という体裁を取っていますよね。ゴーディが仲間たちと一緒に線路沿いを歩く冒険が描かれるのは理解できるんですけど、同時並行でゴーディが見ていないはずの不良グループの状況も描かれているのは物凄く不自然に感じるんですよね。原作を見ていないのでわかりませんが、映画だけの演出なんでしょうか。しかも、ラストシーンにゴーディは不良グループのリーダーであるエースに反抗してエースをひどく激昂させますが、その後のエースの話は全く描かれていないのも不自然に感じます。普通はあれだけ怒らせてコケにしたんだから絶対後で何かしら意趣返しがあったと思うんですけど、その描写が一切ない。少年グループの友人たちは既に亡くなっている状況で、何故今になって昔を思い出しながら回顧録のような小説の執筆をしているのかも、少し不思議に思います。
全部が全部、真実ではない気がします。若くて楽しくて輝いていた少年時代を回想しているように見えるけど、そこには多分にフィクションが織り交ぜられているんじゃないかと私は推測しています。日本の中年男性が語る過去の武勇伝が脚色と誇張に溢れているように、ゴーディの少年時代の冒険譚も、現実と虚構が織り交ぜられたフィクション小説だったんじゃないでしょうか。
もちろん原作も観ていない状態での推測なので間違っている可能性が高いとは思っていますけどね。でもこういう考察要素もある素晴らしい映画だったのは確かです。色んな人に観てもらって、感想を語り合いたい名作でした。オススメです!!
>同時並行でゴーディが見ていないはずの不良グループの状況も描かれているのは物凄く不自然に感じるんですよね。
日記の公開ではなく、フィクションとしての映画作品だからでは?登場人物の行動を追って見せることで観客に分かりやすくするためでしょう。
>何故今になって昔を思い出しながら回顧録のような小説の執筆をしているのか、凄く不思議に思います。考えすぎでしょうか。
たしか、夜中に焚火の前で父親に疎まれていると言って泣いた主人公ゴーディーをクリスがお前は小説の才能があるんだからと慰めましたよね。そして、別々の道を行ってもいつか俺たちの事を小説に書いてくれと言った彼の言葉を大切に覚えていたからじゃないでしょうかね。