「群像劇の面白さはあれど…」ジャッキー・ブラウン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
群像劇の面白さはあれど…
◯作品全体
因縁と偶発的な衝突が盛り込まれた群像劇。関係性の築き方が丁寧な作品で面白かったが、「ここぞ」という場面が少しぼやけて見えた。
作品内に物語の山場はいくつかある。主人公・ジャッキーが保釈された後にオデールがやってくるシーンや、ショッピングモールでの金の受け渡しのシーン、ラストでマックスの事務所にやってくるオデールのシーン。いずれもジャッキーの作戦がうまく決まらなければ自身も危うくなる、緊張感のあるシーンだ。
しかし、「きっとうまくいくんだろう」と高を括って見てしまうような、物語上の(悪い意味での)余裕がある気がした。オデールがジャッキーの家に来るシーンでは、反撃の手段として車中にある銃をあらかじめ映している。そしてそれが実際に反撃の手段として登場するわけだが、結局それ以上に二人の有利不利を動かすわけではなく、予想の範疇で物語が進む。ショッピングモールでの受け渡しも特にイレギュラーがあるでもなく終わってしまう。オデールの妾であるメラニーが突如撃たれるが、自分勝手に振る舞うメラニーをあらかじめ映していたから、バッドエンドへ向かうことに驚きもなかった。ラストでオデールを撃つ場面では、その前に慣れない手つきで銃をとりだす練習を映すことで「もしかしたらジャッキーは失敗するのでは」という含みを作る演出があった。しかし、オデールを追う火器局やマックスの部下というカードが残っている状況では「きっと解決できるんだろう」と予測できてしまう。
どの場面もジャッキーにとって打つ手なしの状況が存在しないから、本来感じるはずの緊張感がぼやけてしまって「ここぞ」の場面のパンチが効いていない。間違いなくジャッキーは危険なルートを歩いているのだけれど、それぞれの思惑や行動がキッチリ描かれてしまっていて少し刺激が足りなかった。
タランティーノ作品といえば他の作品とは一線を画す「刺激」なのだけれど…本作は少し不発気味だった。
〇カメラワークとか
・ファーストカットは動く歩道と奥の壁を使ったタイトル出し。特に目新しいものではないけど、余白の使い方と1カットでCAという職業を見せてるのが巧い。後半で同じ演出をもう一度使ってた。今度は青色の壁面。
〇その他
・『パルプ・フィクション』、『レザボアドッグス』と続いておきながら、演出も脚本も随分トーンダウンしちゃってるなあ。画面から若々しさと楽しさが溢れてた二作品とは打って変わって、薄味な気がする。この後にまた『キルビル』でエッジが効いた作品作ってるし、ちょっと放牧が必要だった時期なのかも。
・映画見てると「弾丸の出ない銃と出る銃」がなんとなくわかってきたりする。物語の展開、人物の映し方、話し方、画面の色味、BGM…総合的に自分が感じ取ってどっちの銃か自然に判断してるんだけど、大体の作品は予想通りの展開になってしまう。
それって最高につまんないんだけど、タランティーノ映画はそういう予想を裏切って、弾丸の出ない銃から弾丸が出てくるのがすごいところだと思う。でもこの作品は弾丸が出ないところは出ないし、出るところは出てしまっているのが、なによりも不満だ。