「鑑賞後、ジェフリー・ラッシュ!!!!と、雄たけびを上げたくなる。 ノア・テイラー氏の演技も鳥肌ものなのに。」シャイン とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
鑑賞後、ジェフリー・ラッシュ!!!!と、雄たけびを上げたくなる。 ノア・テイラー氏の演技も鳥肌ものなのに。
実話。
でもデイビット氏の兄弟からクレームとな。
実際は藪の中。羅生門エフェクト(心理用語。詳しくは『羅生門』のレビューをご参考下さい)。
言えることは、デイビットが語ったことを妻が書いたということだけ。(デイビットの心的現実+妻の価値観によってできた物語で、ある意味、これも事実)
そうか。奥様と出会ってからラストまでが、すごくお座なりな描き方で違和感あったんですよね。
「父の愛によって狂気に追いやられ、妻の愛によって復活した」というのなら、もっと妻と愛を深める過程をじっくり描くだろうにと不満だったが、そういう理由があったのね。原作本の映画化版権を妻が持っているから、へたな描写して「NO」と言われたら全てがとん挫するものね。
父。私には、暴君には見えなかった。
ナチスによって家族を殺されて家族が離れることが怖かった父。ああ、ここでもナチスの影が、とそちらの方が唖然とした。根深く引きずるPTSD。
子が「もっとうまくなりたい」と望む。”ラフマニノフ”にこだわる。反対する父。教えられないから。でも結局、父はレッスン料払えないと言う屈辱をさらしても最初の師に託すし、結局、父は留学資金集めを受け入れる。何とかしたいけど何とかできない父の背中が切ない。
それに留学すれば、誰が一番かという身も心も擦り切れる世界への参戦。「家族の元に留まれ」という父の言葉は「一番でなくたって愛しているよ」と聞こえた。この時点ですでに、精神障害の兆候が表れていたのでは?という人もいる。
「お前は運がいい」というのも呪縛にもなるし、幸運を願うおまじないにもなる。それになにより父の本音。ウクライナや各地で起こる災害・絶対的な貧困を考えても、どれほどの才能が花開かずに終わってしまうのだろう。ピアノを弾けているというだけでも幸運というのではなく、自分が心を籠められるものを続けていられるというのが当たり前の世界になってほしいのに。
「だから大丈夫だ」っていう。どういう意味で伝えるのか、どういう意味で受け取るのか、言葉って難しい。
『ファースト・ポジション』を観た後だからそんな思いが強いのかしら。
親と子の愛情って複雑。時が経つにつれ、思い出への意味づけも変わってくる。
子にしてみたら、一番の応援団になってほしい人からの反対。一番応えますね。自分目線からしか親を見れない年代。
”ラフマニノフ”にこだわったのはどうしてなのだろう。”一番”難しく、父さえ弾けない曲。父を喜ばせたかったのか、超えたかったのか。
そして、若きデビット氏の頼みから行われる師との常軌を逸した練習。本当にあんな練習だったのか?
そんな映画の事情はどうあれ、
ラッシュ氏の演技が圧巻なことは疑いない。
そしてノア・テイラー氏も。思春期の繊細な演技が光る。
父も師も重厚な演技を見せるが、ラッシュ氏が凄すぎて。
ラッシュ氏を初めて知ったのは『パイレーツ・カリビアン』こんなお子様映画にこんなすごい人がと釘付け。あういう映画でさえ、手は抜かない。そして『英国王のスピーチ』『鑑定士と顔のない依頼人』拝見する作品ごとに印象が違う。振り幅のすごさ。一つ一つの演技の確かさ。
だけど、このデイビットはそんなラッシュ氏の演技の中でも群を抜いている。
この年のアカデミー・主演男優賞。トム・クルーズ様もノミネートされていた。トム様推しの私だけれど、ああこの、ラッシュ氏なら、軍配ラッシュ氏でも仕方がないと思ってしまう(泪)。ゴールデングローブ賞はドラマとコメディ/ミュージカルで、分け合っていたけれど。
テイラー氏は『バニラスカイ』の監視員と『オールユーニ―ドイズキル』のオタクな科学者。こちらも印象違う。出てくるだけで結構インパクトがある。
そして何より、流れるピアノの素晴らしさは議論の余地ない。実際にデイビット氏の演奏だとか。
映画ラストのリサイタルより、バーで弾く姿が一番活き活きしているように見える。
リサイタルは批評家にさらされ、スケジュールに管理されている世界。本当にデイビット氏が望んだことなのか?コンクールに駆り立てた(ようにみえる)父と、リサイタルに引っ張り出す(ようにみえる)妻。同じように見えるのは私だけ?
なんて、映画での印象で決めつけるのは愚かしいけどね。
映像も色使いがとても洗練されていている。
バーの前の小雨はちょっと寒々しく。でもバーで皆に囲まれている場面は『NINE』?というほど煌びやか。小説家と青年デイビットの場面はとっても温かく、妻との家はガラス張り、と場面場面も美しく、音楽を引き立てる。
と、惚れこむ要素はたくさんある映画なのだけど、
鑑賞し終わっての印象が、ジェフリー・ラッシュ!!!!になっちゃう。
映画に感動というより、俳優の演技に喝采を送ってしまう。
父と子の物語は、見返すたびに意味付けが変わり、新たな発見がありそうだ。
なのに、成人になってからが別物語になったようにも見えて、
後半の妻とのエピソード、父を始めとする源家族とのエピソードをもうちょっと丁寧に描いてほしかった。惜しい。
なので映画としては☆1つ減らして☆4つです。
(原作未読・デイビット氏の半生知らず)
度々のコメントありがとうございます。
シドバレットは2006年に亡くなっています。映画を観に行った翌日7月7日が命日でした。脱退後死ぬ迄40年近く鳴りを潜めており、薬物依存だけではなく元々精神疾患が有ったようです。絵画とかも廃棄していたそうで表に出せない苦悩が有ったんでしょうか。アスペルガー症候群、共感覚の持ち主とちょっとヘルフゴッドと似た境遇だと思った次第です。
コメントありがとうございます。
ヘルフゴッド氏は上手くサポートを受け入れて晴れ舞台に立てたんでしょうね、カムバック出来なかったシドバレットとは周囲との対応も違ったんでしょうか?
ジェフリーラッシュは「英国王のスピーチ」しか観た事なく、「顔のない・・」を観てみたいと思いました。
とみいじょんさん
ジェフリー・ラッシュ、本作で初めて知ったのですが、その後( 2年程前 )に映画館で「 鑑定士と顔のない依頼人 」を観て、あの時の!でした。
どんな人生を歩んできたか…までもイメージさせる演技力に唸りました。