劇場公開日 1998年5月30日

「大富豪もし大自然で熊と戦わば・・・」ザ・ワイルド Garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0大富豪もし大自然で熊と戦わば・・・

2022年1月20日
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鑑賞方法:映画館

 通常、映画の主役に据えられるのは、社会から抑圧された立場にある人間であることが多い。 決して日の当たらない卑小な人生や人間性にスポットを当てる方が、ドラマ的に面白いし、人々の共感を集めやすく、それがまた、映画の一つの役目でもあるからだ。

 支配者層である大富豪が登場した場合、一般的なセオリーなら、窮地に陥り痛い目に遭う。 社会的な成功者が怯えたり狼狽するのを観て、観客は留飲を下げるのだ。

 しかし、この映画では逆に、大富豪にまで上り詰めた成り上がり人間の強靭なバイタリティが、遭難という最悪の状況を切り開いていく様を見せる。

 だが、ヒーロー活劇ではない。 大富豪という極めて稀な成功を勝ち得た人間の能力が、極限状況でどう発揮されるのかを、同伴するカメラマンの俗な人間性と対比しながら人間ドラマとして仕上げているのだ。 ここに、この映画の抜群の面白さがある。

 アンソニーホプキンス演じる大富豪は、知的で謙虚、冷静かつ果敢だ。 大自然の中に取り残されたことに絶望するカメラマン助手を、冷静に諭してなだめる印象的なシーンがある。

「人が遭難して死ぬ原因は、恥だ」
「俺はなんて馬鹿なミスを犯してしまったんだと自分を恥じてばかりで、やるべきことをやらなかった。だから助からなかったんだ」

「…やるべきこととは?」 と不安そうに問うカメラマン助手。

ここで富豪は、「Thinking」 と微笑みながら答えるのだが、この短い対話の中に彼の知性と人間性が端的に表れている。

 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や「評決」で知っていたが、デヴィットマメットの脚本はさすがだ。 個人的には、 「彼らの存在が、私を生かしたのだ」 という最後の一言が、このドラマの締めとして秀逸だと感じた。

 アンソニーホプキンスの演技はもちろん、カメラマンを演じたアレックボールドウィンの演技が最高に素晴らしかった。 また、ジェリーゴールドスミスの壮麗な音楽は、この重厚な冒険ドラマを見事に彩っている。

 それと、忘れてはいけないのが、ヒグマのバート君。 いろんな映画に出ている動物タレントだが、この映画での迫力満点の演技は、 アカデミー賞物! と言っていいだろう。

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Garu