劇場公開日 2019年6月29日

「芸術性こそを堪能すべき作品であると思います」サスペリア(1977) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5芸術性こそを堪能すべき作品であると思います

2019年7月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

4Kリストア版の値打ちのある色彩でした
エクソシストやオーメンに次ぐホラー映画の有名作品にも関わらず、近年なかなか観る事ができなかった作品ですから今回の4Kでの色彩の鮮やかさ、音響の鮮明さは大変有意義なことで関係者の皆様に感謝です

ひとりでは決して観ないで下さいの宣伝文句は伊達ではありませんでした

お話は基本ローズマリーの赤ちゃんを思わせます
そこに本作公開の前年にヒットしたブライアン・デ・パルマ監督のキャリーでの色彩効果と女学生を主役に据える作りを合体させたものと言えます

美術のレベルが凄まじく高くため息がでます
アールデコ調の室内セットは、色彩、幾何学的パターン、花や植物をモチーフにしたデザインで徹底して統一されています
調度品や壁紙、小物の小道具に至るまで、神経が行き届いており見事につきます
壁紙にはグスタフ・クリムト風の紋様と色彩が見られます
ドアの天窓はエクトール・ギマールのパリの地下鉄の入口のデザインを思わせます

冒頭の夜の空港のモダニズムとの対比が効いています
空港の自動ドアを出るとき、外から風が吹き寄せて長いスカーフの両端が両腕のように彼女の背中に回ります
これからサスペリアの世界に拉致されていく恐怖の予感の演出が素晴らしいです
この腕の暗示が、最初の惨劇シーンの始まりの伏線にもなっています

そして、イタリアのプログレッシブロックの雄ゴブリンの素晴らしい音楽と音響
地の底の亡霊達のうめき声のような環境音楽と言うべきものは、40年以上昔にも関わらず今なお現代的で最先端です

何より色彩と照明の効果は舞台的で、とくに色彩をこれでもかと強調する画面構成は斬新そのものです

スポット照明が投影する色彩の計算は見たことないもので、唯一無二の映像体験です
夜の豪雨の中を走るタクシーのはねあげるしぶきがまるで鮮血の血吹雪のように見えます
練習場を避難所にしたシーンでの、消灯後の白いシーツの間仕切りが、真っ赤に補助灯に染まる演出も声が出そうなほどに美しいものでした

ストーリーやプロットの細かい整合性を追及する作品ではありません
ホラー映画としての怖さや過激さを競う作品でもありません

この芸術性こそを存分に堪能すべき作品であると思います
それこそが本作を永遠の価値をもたらしている点であると思います

あき240