「時代を飲み込めば充分な秀作」サイクロンZ 思いついたら変えますさんの映画レビュー(感想・評価)
時代を飲み込めば充分な秀作
女にだらしない弁護士ジャッキー、アコギな武器売人ウォン(サモ・ハン)。二人が仕事上の工作で近づいた女性二人に本気で惹かれていくも、ノイローゼ気味の正義漢トン(ユン・ピョウ)にいちいちかき乱されて...といういかにも80年代トレンディドラマな筋書きだが、並行して悪徳工場のドンであるファー(ユン・ワー)一派との死闘が絡むのでクライムアクションでもあり、これに加えて早とちり男のトンが内輪で大喧嘩を仕掛けてくるので終始ドタバタバトルが絶えない。
ジャッキーとウォンの女性の口説き方は「それ、ロマンチックか??」と正直首を傾げたくなるが、この2人が主演になると魔法のようにモテるのは半ばお約束なので野暮かもしれん。香港カンフー映画というのは時代劇やヤクザモノのように、とりわけジャッキー・サモハン映画は寅さんや釣りバカの如し、ジャンル自体が予定調和なルールを背負ってるので、真面目に批判する方が馬鹿を見る部分があるのだ。
ただ後半、サモ・ハン演じるウォンは愛を証明するためにスパナの一撃を避けなかったり、麻薬注射で蒼白になりながらも仲間に真相を伝えたりとドラマ上での見せ場は今の目でも結構熱い。サモハンは体に鞭打って感動的な事をする配役が良く似合う。ジャッキーは本人が体に鞭打って派手なことする人だけど。
どちらかと言うと今の目で辛いのはユン・ピョウ演じるトンの無遠慮すぎる情緒不安定描写で、スパルタンXの精神病院と並んで若い子に薦めづらいポイントではある。まあ、古い映画に今の倫理観を求めるのも酷ということで...
そんな事よりさぁアクションだ!序盤はユン・ピョウの無意味なハードリアクションに依存するも、
中盤は客船で椅子テーブルが、終盤は工場の入り組んだ階段がそれぞれアスレチック遊具の如く活用され、ターザンさながらのアクロバット芸が光る。モノ以上に、場所を活用したアクションが彼等を輝かせる。特に終盤はここだけ見てもお釣りがくるほど目まぐるしく離れ技が飛び交いまくる。巨漢ベニー・ユキーデ演じる研究員もボスキャラポジとして威圧感が高く、ここまでメインキャラとしての華が弱かったジャッキーのヒーローポイントアップにひと役買う。
ストンと終わるラストも余計な事しないで潔く、90分にしてはなかなか濃厚な1本。
語ることが決して多い訳では無いが、たまに恋しくなる愛すべき好編だと思う。
ただ一人、メインヒロインよりよっぽどジャッキーの良妻ポジと言える秘書子ちゃんの片想いは救いがなくて可哀想なんだよな...