「“大人のお伽噺”とは言え、好みの違いに…」五月のミル KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
“大人のお伽噺”とは言え、好みの違いに…
ルイ・マルと言えば、
「死刑台のエレベーター」「恋人たち」
「さよなら子供たち」等を思い出すが、
34年前のロードショー以来の
再鑑賞になったのは、
最初の鑑賞時はこの作品の背景となった
1968年のパリ五月革命の歴史的意味への
認識も無いままに観ていたような
気がしていた中、この作品のDVDを
近くの図書館に発見したからだった。
しかし、
前半の遺産相続(争続)的展開から、
後半での、脚本家の影響か
ルイス・ブニュエル的に
フリーセックス万歳的ストーリーと
馬鹿騒ぎ的酒宴が展開していた中、
あたかもそれと距離を置いたように、
黙々と墓穴を掘る下男や
それを見守る亡母親、また、
双子や猫の反応の描写が印象的で、
この作品における監督の一貫性にも
理解が及ばないままになってしまった。
また、その後は、
主人公一族が地主階級ということもあり、
冒頭からのパリの五月革命による
波及への恐れにシフト変更されていったが、
フランス人の持つ共産主義への恐れと共に、
ルイ・マル自身も反左翼的思想の人だった
のだろうかと想像もしながら観ていた。
パンフレットには、この作品は
“大人のお伽噺”とあったが、
私には節度を超えた性的関係と
寓話的描写のし過ぎに感じ、
私の映画嗜好からすると、この作品は、
せめて、町の工場主夫妻がやって来て、
主人公ら地主一族への警鐘で終わらせ、
後は観客の想像に任せるエンディングを
期待したいところ。
また、作品冒頭での、
ミルを呼んでいるメイドの声は、
その大きさからすると、
ほどほど屋敷は近いはずなのに、
長々と自転車で戻るシーンからして
リアリティを感じず、出鼻を挫かれていた。
多分に、
田園であることを強調したいがため、
その中を疾走する自転車を
この作品のモチーフ(緑色を背景とした
自転車をデザインしたポスターもあった)
にする狙いではあるのだろうが、
整合性の欠けた不自然な編集に
感じたためだったろうと思う。
そんなこんなで、
一言で言ってしまえば
キネマ旬報ベストテン第7位の作品
ではあるが、“好みの違い”
がこの作品への低評価に繋がってしまった
ような気がする。