劇場公開日 2024年10月11日

「ローマ五賢帝時代終焉期の史実と誤説をうまくアレンジした、ヒロイックファンタジー」グラディエーター kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ローマ五賢帝時代終焉期の史実と誤説をうまくアレンジした、ヒロイックファンタジー

2022年9月20日
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鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭12にて。

かつてイタリアで大量生産された低予算の「ソード&サンダル映画」に登場する剣闘士は、筋骨隆々の元ボディビルダーが演じていた。子供の頃テレビの洋画番組で繰り返し放映されていたので、よく観た。はち切れんばかりの豊満なバストのヒロインにトキめいたものだ。
剣闘士といえばそんな映画を思い出す世代なので、本作の公開時はラッセル・クロウに違和感を抱きつつ劇場へ行ったのだった。しかし、雄大なオープンセットとロケーション撮影に、B級映画とのスケールの違いを感じたし、素人ではない優れた俳優たちが演じる人間ドラマの重厚さに感動して劇場を出たことを覚えている。
…『ベン・ハー』や『スパルタカス』といった低予算ではない「ソード&サンダル」も存在することを為念で記しておく…

ローマ帝国第16代皇帝マルクス・アウレリウスが嫡男コンモドゥスによって暗殺されたという説に基づいた、フィクション史劇。
暴君ネロと並んで悪評高い第17代皇帝コンモドゥスだが、先帝を暗殺した事実はなく、アウレリウスは戦地で病死したということだ。
同じ切り口の『ローマ帝国の滅亡』('64)が制作された当時は学問上でも暗殺説が生きていたのかもしれないが、今やその説は完全否定されている。

冒頭のゲルマニア軍との森林での戦闘場面から、主人公マクシムスが奴隷剣闘士エスパニャードとなって何度か見せるコロシアムでの死闘まで、迫力ある演出が展開される。

ローマ軍の将軍マクシムス(ラッセル・クロウ)は勇気と知恵の男で、皇帝アウレリウス(リチャード・ハリス)からの信頼は厚い。
アウレリウスは帝位をマクシムスに継がせようと考える。共和制による統治への変革を目論んでいたのだ。
実際、古代ローマは共和制で元老院によって政策が決定されていた。初代ローマ皇帝とされるアウグストゥス(オクタウィアヌス)も共和制尊重を建前に自らを権力者ではなくプリンケプス(権威者)と呼び、帝政の初期は皇帝ではなくプリンスケプスによって統治されていた。(事実上は兼務する皇帝が支配)
この映画の舞台は、内戦を経て「ネルウァ=アントニヌス朝」の樹立によって政権が安定し、帝位の世襲が行われていた時代で、アウレリウスを含める五賢帝と呼ばれた皇帝たちは皆、先帝の養子になることで帝位を継いでいる。アウレリウスだけが実子に恵まれ、コンモドゥスが十代のうちに帝位に就かせて共同皇帝としたのだから、決して世襲制を否定していたわけではない…らしい。(にわか知識だが)

さて、マクシムスは架空の人物だが、嫡男コンモドゥス(Commodus→字幕ではコモドゥス)(ホアキン・フェニックス)とコモドゥスの姉ルキッラ(Lucilla→字幕ではルシラ)(コニー・ニールセン)は実在の人物。
コモドゥスは暴君というより、病的で陰湿な謀略家として描かれている。
更には、姉ルシラに対する近親愛を思わせる描写もあり、二人は相互依存の関係のようにも見えた。
ルシラは未亡人で一人息子がいる。
ルシラとマクシムスの間には過去に恋愛関係があり、息子のルキウス(スペンサー・トリート・クラーク)が剣闘士エスパニャードに憧れる…と、いう作劇になっている。
実際、ルシラと息子の父親ルキウス・ウェルス(コモドゥスの前にアウレリウスと共同皇帝だった)とは政略結婚だったと思われるので、若き日に許されぬ恋物語があったというのも意外ではない設定だ。

過酷な運命を強いられることとなったマクシムスだが、そもそも先帝の勝手な思いつきが原因だと言えなくもない。
新帝コモドゥスは父親からの愛情が感じられず、父は事実マクシムスの方に傾注していたのだから、コモドゥスが父親とマクシムスを恨むようになるのも頷ける。ましてや、後継者問題が切迫した段階で父親から面と向かって帝位を継がせられないと謝られれば、なおさらだ。
この屈折した新帝を演じるホアキン・フェニックスが素晴らしい。この映画が製作された頃から今日に至っても、卑屈な男を演じると彼の右に出る役者はいないだろう。

物語が大きく動くのは、マクシムス脱出計画のシークェンスだ。元老院の閣僚やルシラ、かつての部下が協力して作戦を決行する胸アツの場面。
これに奴隷仲間たちが加わって叛乱が起きるのだが、総てはコモドゥスの罠だった。元老院にも反コモドゥス派と親コモドゥス派がいたのだ。
計画が失敗に終わってマクシムスは捕らえられ、いよいよコロシアムでコモドゥスと対決することになる。コモドゥスは策略をしかけて、マクシムスを大衆の目の前で倒そうと考えたのだ。
この死闘を制するのはマクシムスなのだが、コモドゥスが闘技場で死んだ(殺された)のは史実だというから、歴史というのは面白い。
さて、マクシムスは生き残ったのか、あるいはコモドゥスと刺し違えて果てたのか、いずれにしても大衆の目前で彼がヒーローであることを示して物語は幕を閉じる。

この後100年近くの間、ローマ帝国は混乱と分裂の歴史を刻むことになる。

kazz
seiyoさんのコメント
2023年11月14日

こんばんは。
度重なるコメント失礼します。
確かにホアキンフェニックスは今、旬かも。

今さらなんですが、
リバーフェニックスの弟と先ほど知りました。

seiyo
seiyoさんのコメント
2023年11月14日

コメントありがとうございます。

ミッドサマーにもヤン君出でいました。
無残な姿になってしまいましたが。

kazzさんはミッドサマーはけっこう辛い点数でしたよね。
評判は良いですよね。

seiyo
seiyoさんのコメント
2023年11月13日

おはようございます。コメントありがとうございます。
ナポレオンは楽しみですよね。
2024年1月は、ボーはおそれているも公開です。

こちらは、何とグランツーリスモのヤン君が出演しています。
楽しみなんです。

seiyo
seiyoさんのコメント
2023年11月12日

こんばんは~。
素晴らしいレビューです。

seiyo