劇場公開日 1958年1月28日

「眼下の敵とはなにか? 実はダブルミーイングになっています それは、序盤で新任艦長が老軍医に話すことです」眼下の敵 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0眼下の敵とはなにか? 実はダブルミーイングになっています それは、序盤で新任艦長が老軍医に話すことです

2020年11月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

星5つでは足らない!
7つでも8個でもまだ足らない
これは星10 個の作品だ!

余りににも有名
ローマの休日のように、いろいろなジャンルの映画にはそれぞれこれを観てないとお話に成らないでしょ!という映画があります
何で観てないの?おかしいでしょ?!
そう言われる映画です
潜水艦ものなら本作です
いや戦争映画のベスト5にはいる超傑作なのは間違いないと思います

素晴らしい脚本と演出です
全く無駄がなく、するするとと物語が進み、気がつけばもうクライマックスです

安全深度の限界を超えて深く潜行するシーン
深度計の針がレッドゾーンに入って艦体がガタビシ言っています
Uボートのベテラン艦長はそれを命じながら、不安そうに深度計を見つめます
その見つめる深度計のすぐそばから、いきなり激しく漏水が噴き出す演出は、一切無駄がない惚れ惚れする見事な演出です

序盤の駆逐艦の士官室のトランプのシーンも、ただのこの艦の状況説明や新任艦長の噂話だけのシーンではないのです
これから始まる駆逐艦とU ボートとの頭脳戦を予告するものでもあるのです

Uボートの艦長の初登場シーンも、総統がどうしたこうしたのスローガンの看板に冷たい目を向けさせた上で、使ったタオルをわざわざ総統と書いてある部分が見えないようにしてその場から離れさせるのです
それを見せてから副長との会話で、彼がどのような人物であるのかじつにスマートに簡潔に紹介してみせます

このように枚挙にいとまがありません

眼下の敵
もちろん海面下の潜水艦のことです
劇中、停止した駆逐艦のコックが垂らす釣り糸に沿ってカメラは甲板の高さから喫水線まで降りて、さらに海中に進んで、奥深く海底に潜むUボートを見せるシーンはそのものズバリです

しかし、実はダブルミーイングになっています
眼下の敵とはなにか?
それは、序盤で新任艦長が老軍医に話すことです

悲惨と破壊に終わりはない
頭を切り落としても、またはえる蛇だ
殺す事はできない
敵は我々自身の中にあるのだ

本当の「眼下の敵」とは、戦争の現実に押し流されてヒューマニティを見失ってしまう、そのことです

これがクライマックスでの彼の行動につながっていきます
このテーマが本作を貫くバックボーンとして確立されているからこそ本作を名作たらしめているのだと思います

昔、横須賀でタクシーに乗った時、運転手さんからこんな話を聞きました
日本の潜水艦乗りは乗せたらすぐわかる
だってディーゼルの臭いが体に染み付いているからと
アメリカさんはわからないね
だって原潜だからさ

本作のUボートの艦内は、そのディーゼルの臭気や、嫌になる暑さと湿度の高さを感じるリアリティがあります

1957年の作品、米国と西ドイツの合作
だからこそのリアリティなのでしょう

日本にも潜水艦映画はあります
1955年に「人間魚雷回天」が元海軍出身の松林監督が撮影しているものです
それだけに日本の潜水艦映画では稀にみるリアリティがあります

しかしその題材はまさにこの眼下の敵に自ら負けてしまった特攻兵器の事です

両極端のようでこの二つの作品は、どちらもこの眼下の敵に対して、一方は勝ち、一方は敗れた戦いを描いている同じ物語だったのです
戦争の余りの悲惨が改めて胸迫ります

監督のディック・パウエルは、若い頃は二枚俳優でミュージカルとかに出て、50代で監督になるまで俳優をしていた人
第7回アカデミー賞事件ではベティ・デイヴィスの為に抗議の先頭にも立った人で人望も有ったのでしょう
本作製作時は53歳
予告編に監督本人が登場するのは、そういう事で本人がでたがっていたのか、スタッフが面白がって出ろ出ろとうるさかったのかどちらかだったのでしょう
監督の才能がある人だったと思います
本作を入れて撮ったのは僅か5 作だけでした
58歳の早すぎる死でした
もったいないことです

あき240