劇場公開日 2024年6月28日

「ヴィーヴ・ベベル! 底抜けにくだらない、くだらないがゆえに愛おしい007パスティーシュ。」おかしなおかしな大冒険 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ヴィーヴ・ベベル! 底抜けにくだらない、くだらないがゆえに愛おしい007パスティーシュ。

2024年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

くっ…くっだらねえ……(笑)
ウルトラくっだらねえ……。
でも……、そこがいい!!!

個人的にはすっげえ楽しめたけど、
それはジャン=ポール・ベルモンド主演、
フィリップ・ド・ブロカ監督の
1973年作品だから許せているだけであって、
もしかしたら現代を舞台に、
鈴木亮平と綾瀬はるかとで全く同じ話を福田雄一が撮ったら、
俺は観て、激昂するかもしれない。
「はるか様になにクソくだらないことやらせてるんだ!?」って。

その可能性はわれながら捨てきれないので、いちおう☆評価は3.5くらいにしておいたのだが、最初から底抜けにバカな映画だとしっかりわかってて、それをリヴァイヴァル上映という枠組みで、理解のある有志たちとともに、愛情をもって心穏やかに鑑賞するぶんには、こんな最高にバカバカしくて面白い映画もなかった。

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選グランドフィナーレ、三本目。
同じ監督&主演コンビで撮られた『リオの男』や『カトマンズの男』と比べても、段違いにくだらない内容(笑)。スパイ映画の徹底したパスティーシュなのだが、ほぼめちゃくちゃといっていいくらいにおちゃらけていて、しかも一応のエクスキューズが用意してある。
要するに、本作のスパイ・パートはすべて、現実世界の小説家がまさにいま執筆中のパルプフィクション内で展開している、架空のドタバタ冒険活劇という設定なのだ。

流行作家が適当に書き散らしているおバカスパイもののストーリーだから、リミットをはずれた、好き放題のハチャメチャな展開でも許容されるよね、というわけだ。
祖型となるのは当然、デイヴィッド・ニーヴン版の『007カジノ・ロワイヤル』(1967)になるのだろうが、ノリでいうと、どちらかというと『ピンクパンサー3』(1976)に近い感じのブラックさとエグみ、ド外れたおふざけが見られる(『ピンクパンサー3』のほうが、2年前に封切られた本作の影響を受けている可能性は多分にある)。
当然、悪ノリが過ぎる面もあるが、比較的穏当でノスタルジックな現実篇(もてない流行作家とおきゃんな女子大生のラブコメ)が対比としてあるおかげで、それなりにおバカパートも客体化され、悪ふざけを悪ふざけとして割り切って楽しむことが十分に可能だ。

とにかく、かっこつけまくっているわりに、まるでかっこうのつかないジャン=ポール・ベルモンドが最高に愛おしい。
それから、これぞ美女中の美女と呼びたくなるような、ジャクリーン・ビセットの妖艶&清楚両面の美貌がゴージャスだ。

魅力的な男と女が、延々とくだらないネタをやらされつつ、楽し気にわきゃわきゃしている様子は、アイドルがいじられまくるコント番組にも少し似て、観ていてほっこりした気持ちになる。そして、それを下支えするのが、『ボルサリーノ』の映画音楽でも知られるクロード・ボランのご機嫌なラテン・ミュージックだ(基本、スパイ小説パートでしかかからず、現実パートはBGMなしに淡々と進む。世界観を分けるには、賢いやり方だと思う)。
あと、スパイ・パートはカラフルな白と原色の世界。現実パートは地味なモノトーンベースの世界で切り換えられている。

以下、箇条書きで。

●ジャン=ポール・ベルモンド演じる凄腕スパイ、サンクレールのいきったアホファッションとか、ピンクのスーツとか、胸板の厚さとか、奇妙なポージングとか、裸で筋肉を誇示する傾向など、なんかデジャヴがあるなあと思ったら、ちょっとオードリーの春日みたいなのな(笑)。

●学生のころ、ジャクリーン・ビセットの『料理長殿、ご用心』(78)を観て一瞬で恋に落ちたが、やっぱりこういう美人は動いてるだけでいいねえ。スパイ・パートか学生パートかでいうと、断然後者が好みで、俺もこんな女子大学生に付きまとわれてみたい……。てか、作家と堅物の女子大生の恋のさや当てって、他にも観たか読んだかした記憶があるんだけど、出て来ない。

●「おかしなおかしな」という邦題の由来を考えると、おそらくなら同じ1973年に米日で封切られたジャクリーン・ビセットがヒロイン役として出ている『おかしなおかしな大泥棒』(主演はライアン・オニール)と関連づけたのでは、と想像される(『~大追跡』の日本公開は1974年)。
なお「おかしなおかしな」の元祖となるのは、1972年の『おかしなおかしな大追跡』(バーブラ・ストライザント&ライアン・オニール)で、こちらはライアン・オニールつながり。
ちなみにジャクリーン・ビセットは前出の『カジノ・ロワイヤル』にも新人時代にちょい役(ミス・フトモモ)で出ている。

●冒頭の電話ボックス吊り上げは、石井輝男の『直撃地獄拳 大逆転』(74)にでも出てきそうなバカネタで、のほほんとした感じが良い。そのあとのサメに襲われるところは『ジョーズ』(75)の先取りだね!

●暗殺を狙ったアルバニア人の死に際の、通訳コントもなかなか味がある。

●前半のネタの多くは、大量殺りく系(笑)。ショッカーのような敵軍団を、ひらりひらりとかわして、次々やっつけていく様が、過剰かつコミカルに描かれる。

●終盤、作家が暴走して小説の内容が荒れ始めて、乱痴気騒ぎが増えてくると、スプラッタっぽいアホネタがやたら出てきはじめるのは、好みの分かれるところかも。

●作家が作品を提供している出版社の編集長(作中劇ではアルバニア諜報機関の幹部)役のビットリオ・カプリオーリが良い味を出している。アメリカでならダニー・デヴィートあたりがやりそうな役だが、ちょっとレイモンド・バーみたいな渋味もあって、パリピの中核にいてもうまくおさまっている。ちなみに、このパリピ軍団ってのも、なにかのパロディなんだろうね。

●最後はありきたりといえばありきたりだが、きれいに終わっているのではないでしょうか。館内でもときどき笑い声がもれて、とても和やかな雰囲気だった。まずはこの一連のジャン=ポール・ベルモンド傑作選を企画した江戸木純氏に心からの敬意を表したい。

じゃい
トミーさんのコメント
2024年9月4日

共感ありがとうございます。
アルバニアを馬鹿にしてるとか、アメリカ兵獣とかそこはかとなくヘイト味がしましたね。

トミー
トミーさんのコメント
2024年9月4日

ちょっとアーガイルの先取りかな?と思いました。

トミー