オー!のレビュー・感想・評価
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「悪ガキ」と言われた男の顛末
「コブラ、ルパン三世、ジャッキー・チェン氏に加えて、加えてトム・クルーズ様に影響を与えた俳優」と聞いて鑑賞。
勝手なイメージが先行して、最初の鑑賞の時は、物足りなかった。
もっと、ほれぼれするような格好いい主人公が見られるのかと思ったら…。
『俺たちに明日はない』を彷彿とするような転落劇。
解説には「若きギャングの成功と破滅を鮮烈に描いた青春クライムアクション」とあるが、『俺たちに明日はない』のような激しさはない。
近年のクライムもののようなひりひりした感覚もなく、どちらかというと緩い。
「怪盗ルパン+カポネ」と新聞記事でもてはやされるような脱獄劇はあり。それが通るの?と驚くような手腕ではあるが、映画的な華やかさはない。
”成功”した姿が、ちっとも満足そうではないので、”成功”?と思ってしまう。
また、恋人を守れなくて、相手のなすがままにさせておいてと、”格好いい”を念頭に置いていると腹が立ってくる小者感。
ラストも、ハリウッドのような派手な打ち上げ花火で終わらない。”悪”を気取った男の成れの果て。ジャンヌ・モローさんの『危険な関係』のラストを思わせるようなシビアさ。
予告にある説明文「”怪盗ルパン+カポネ”と呼ばれた男の哀しき生き様」という、”哀しさ””やるせなさ””男の幼稚さ”だけが余韻として残る。
それでも、初めから”大物ぶっている小者”の物語として観ていると、よくできている。
ベルモンドさんて、こういう役もなさるんだ。
初見では、もっと短くサクッとしてもと思ったりもするが、ある意味冗長に、一つ一つのエピソードを丁寧に描いている。
親友への、カーレースへのこだわり。「金じゃない。命かけているんだ」
恋人との関係の変化。ー成熟した”愛”を知らない男。
記者との関係。ー記者側の変化。
警察との攻防。ーいかにも”切れ者”っぽい風貌が笑える。
元仲間の中での立ち位置。
いくつもの糸が絡み合って物語が進んでいく。
ただ、濃厚に描くわけではない。ベルモンド氏のその時その時の表情も、見逃してしまうと、話が薄っぺらくなる。
アクションも、「上記の人々に影響を与えた」目線で見ると、この映画では控えめ。車を使って逃走もあるが、カーチェイスというほどではない。「その街中で撃ち合うか?警察も」という銃撃戦もあるが、今の目線で見ると、もたついている。
特筆すべきはレーシングカーでのレースか。ベルモンド氏ご自身もレーシングカーを操ると聞く。ご自身で運転したのだろうか。
とはいえ、この映画を特別にしているのは、当時のファッション・インテリア。
あの、鯨のソファー・ベッド?おこもりテント?に始まるベネディットのインテリア・センス。
フランソワの部屋のインテリア・センスもよい。
ベルモンド氏の着こなし。
新聞を包んでプレゼントの粋。
カーマニアではないけれど、おもちゃのようなフォルムの車たち。
当時のエスプリを堪能。”外国”へ旅行した気分になる。
美しすぎるシムカス、数々の名車、そして、なんだかんだで、ベルモンド。
あの「冒険者たち」と同じ監督と脚本と思えないほど、ストーリーの展開が杜撰で、ちょっと投げやりのような感じにも見えた。
基本的な設定は悪くないし、当時のカメラとフィルムで撮影された60年代後半のフランスの独特の柔らかい色調の街並や、その中を走り抜ける往年の名車の数々、当時の闇社会で本当に存在してたような雰囲気の役者たち、そして、哀愁感が疾走するフランソワ・ド・ルーベの音楽。これらは本当にどれも良かったので、もっと脚本を練り直してから作って欲しかった。
特にラストの方のジョアンナ・シムカスの扱いは何とも酷すぎる。
本作における彼女は本当に美しく、その圧倒的な美女ぶりは、ある意味「冒険者たち」以上とも言えたので、あの殆んど投げやりとも言えるシーンは本当に有り得ない。
役どころがファッション・モデルという事もあって、あの美しい彼女を見るだけでも、「この映画を観る価値が有る!」とも言えるが、
それにしても、もう少し何とかして欲しかった。
そして、美しいシムカスだけでなく、様々なシーンで登場してくる往年の名車が予想外の見どころだった。
シムカスが走らせていた黄色いドロップヘッドの「シアタ・スプリング850」や、ベルモンドがサーキットで走らせた「マトラMS630」などは、なかなか走っている映像を見る機会がないので、むしろ本筋と関係のないところで嬉しくなってしまった。
そして、こんなダメなストーリー展開にも関わらず、結局なんだかんだ最後まで観てしまうのは、やっぱりベルモンドが主役だったからかもしれない。他の役者では、こうはいかなかっただろう(こういう所はジャッキー・チェンと少し似ている)。
あと、あの60年代の映画フィルム特有の、なんとも言えない柔らかく味のある色調は、おそらくスクリーンで観ないと堪能できなかったと思う。
今回のベルモンドの特集を企画実行してくださった皆様方には、本当に感謝感謝である。
青春×犯罪×べルモンド
べルモンド傑作選の三本目はこの作品
怪盗ルパン+アル・カポネと呼ばれた若き悪党フランソワ・オラン、通称「オー」の活躍を描いたフィルム・ノワール
カーレースのシーンや脱獄のシーンはルパン三世1stシーズンで丸々参考にしたんだろうなと思うそっくりな話がある。
お馴染みの黄色いオープンカーも出てくるし
少し登場人物の気持ちが読み取りづらいが、印象に残るシーンだらけだ。脚本だけが満点でも忘れてしまう映画はよくあるが、こういう映画は忘れない。映画って結局こういう説明が難しい雰囲気、味、愛嬌が一番重要だと思う。その面から見ると今作は満点!
元レーサーで悪党な主人公
変装してなりすまし釈放(一番好きなシーン)
ネクタイを372本持ってる
なんて現実味の無い設定なんだって思うかもしれないけど、それが面白いんじゃない!という製作陣の開き直りが感じられて清々しい。そして、実際に面白いんだからしょうがない。
ラストのヒロインの最期がかつての友人の最期と同じなのもいい。どちらもオーを残して死んでしまうのが切ない。
認められたい孤独な若者
若い頃からベルモンドが深い内面も演じる俳優であることを示している映画です。最初はなんとなく暗い印象で陽気で明るいベルモンドではなかったのでどう捉えていいのかわかりませんでした。でも4回見て自分なりに身に沁みる映画になりました。評価も上がりレビューも書き換えました。
理解者の一人である新聞記者はフランソワを単なる「悪ガキ」と評する。レース事故は親友とのほんのちょっとの接触が原因なだけで故意ではないことを説明したい。自分のドライビングテクニックも見せてやりたい。確かに悪ガキ。
ベネディットは美しく服も家も黄色い車もすべて素敵。フランソワもお洒落でコートも煙草も一流品。ネクタイは372本持っている。1年365日+1週間分。お洒落で流血嫌いのフランソワをネクタイの新聞広告でおびき寄せ追い込んだのは警察だ。警察がマスコミをてなずけて使う手法は昔から。
ヨーロッパやアメリカは銀行強盗が普通によくあるんだろうか?逃亡に不可欠なのが優秀ドライバー、強盗仲間は替えた方がいい。この映画と「ベイビー・ドライバー」で知ったことだ。脱獄方法も頭いい。ヨーロッパの刑務所はどこでも同じ構造なんだろうか?長方形の建物で数階建てで天井が高く真ん中が吹き抜け、ぐるりと廊下でそこに各部屋(この映画では独房ではない)が並んでいる。
恋人に対してモデルの仕事に言いがかりをつけるフランソワ。彼女は売れっ子でファッション雑誌の表紙を飾り街の壁にもポスターが沢山貼られている。一方、自分は彼女を招き入れるような所に住んでもいずレーサーの振りをして嘘をついている。そういうフランソワ=ベルモンドを見て辛く悲しくなった。若い時によくある劣等感と悔しさ。認めてもらいたい思いと自意識過剰でいっぱい。
ルパンだ、カポネだと書かれた新聞を何部も買って、自分の写真とリード文の切り抜きを部屋中に貼りまくるフランソワ。自分の横顔と拳銃を手にする姿を鏡に映すフランソワ。まるで「タクシー・ドライバー」のデニーロだ。
ピアノメインのメロディー3つがとても良かった。1つは緊迫感、2つ目は孤独と苦しみ、そして3つ目は明るさ。見れば見るほどどんどんいい映画になっていく。(2021.8.3.)
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