「自分の人生は」歌え!ロレッタ 愛のために sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の人生は
カントリーミュージックのシンガーとして活躍したロレッタ・リンの半生を描いた作品。
田舎の炭坑町で愛情深い両親と大勢の兄弟に囲まれて育った彼女は、ある日軍役を終えたドゥーという青年に見初められ、13歳の若さでありながら結婚をしてしまう。
結婚の許可を貰いに訪れたドゥーに、父親のテッドは「決して殴らないことと、遠くへは行かないこと」という条件を出して結婚を許可する。
本当は結婚に反対なのにロレッタの幸せを想い、結婚を承諾する両親の姿に心が暖まる。
しかしまだ13歳で嫁入り修行もしたことのないロレッタは、あまりの家事の出来なさにドゥーに呆れられ別居を言い渡されてしまう。
さらにドゥーは坑夫として働くことに嫌気が差し、田舎町を出ていってしまう。
仕事で成功したら彼女に旅費を送ると約束をして。
ドゥーはロレッタを殴らないことと、遠くへは行かないことというテッドとの二つの約束を破っているが、結局テッドはロレッタの意思を尊重し、彼女の旅立ちを見送る。
やがて月日が経ち、四人の子をもうけたロレッタは、ドゥーからプレゼントされたギターを弾くうちにシンガーとしての才能を開花させる。
ドゥーが彼女の歌を聞くのが好きなんだと語るシーンがあるが、もっと前半からロレッタが歌うのがとても好きなのだと分かるエピソードがあっても良かったのではないかと思った。
ドゥーはいつしか積極的に彼女を酒場に連れていき、客の前で歌を披露させることで彼女を世間にアピールする。
さらにドゥーは彼女の歌をレコーディングし、ラジオの放送局に送りつけて売り込もうとする。
二人三脚でゲリラ的にラジオの生放送に出演する二人の姿が面白い。
そしてロレッタは興奮して喋り出すと止まらない。
最初は言葉だけは甘いが不誠実な男だという印象のあったドゥーだが、実はとても愛情深い男であることが分かる。
ただ彼は自分の中で一度こうと決めると一人で突っ走ってしまう人間なのだ。
結婚の申し込みも、彼女をシンガーソングライターとして売り出すことも。
やがて彼女の歌うカントリーミュージックは全米を熱狂させていく。
まさにアメリカンドリームだが、こうした突然の成功の後には失墜も待っているものだ。
マネージャーとしてロレッタをスターに押し上げたドゥーだが、次第に居場所を失っていき、まるで彼女のヒモのような存在になってしまう。
プライドの高い彼はいちいちロレッタの容姿に口を出すのだが、それがロレッタには堪らない。
それでもあくまでもドゥーが彼女を支えるための裏方に徹したのは、彼女への愛情の深さ故だろう。
深夜にロレッタ当てに電話をかけてきたファンに対して、声を荒げながらも最後まで話に付き合ってあげるところなどに、彼の人の良さが伺える。
一方ロレッタは多忙のために活力を失っていく。
そしてついに人前で歌うことが出来なくなってしまう。
彼女は世間知らずの13歳で結婚してから、自分の人生をすべてドゥーの勢いのままに任せてしまった。
『ジュディ』を観た時も思ったが、自分の意思で選んだ人生でなければ、どれだけ華やかなステージに立ってもいつかは綻びが生じるのだろう。
彼女が再びステージに復帰出来たのはドゥーとの信頼関係があったからだろう。
ロレッタが相談もなく新居を決めてしまったドゥーに怒りながらも、どこに寝室を作るか楽しそうに話す姿に二人のこれからの未来が見えるような気がして心が和んだ。