「永遠に語り継がれる物語(ミュージカル)」ウエスト・サイド物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
永遠に語り継がれる物語(ミュージカル)
スピルバーグによるリメイク版が開幕。1961年のオリジナル。
言わずと知れたハリウッド・ミュージカルの金字塔の一本。
アカデミー賞では大量10部門獲得。今回のリメイク版は7部門ノミネートだから、如何に凄いか分かる。
名作中の名作でありながら、実は恥ずかしながら、見たのはかなりの昔に一度だけ。しかも、今となっちゃあほとんど覚えてない。
リメイク版を観る前に、再見の絶好の機会。
初鑑賞のつもりで鑑賞。
とても良かったと思う。改めて見て良かった。
ミュージカルの金字塔と言われる理由も確かに。
撮影、意表を付いた題材、ミュージカルとしての醍醐味、強いメッセージ性…。
かつてハリウッドにどのジャンルよりも栄華を誇っていたミュージカル。が、この時すでに衰退。新たな魅力で再び活気を取り戻し、その後の名作ミュージカルの先駆となったのも頷ける。
まず、開幕の空撮が圧巻。
NYの巨大ブリッジや摩天楼。今から60年以上も前だと言うのに、その大都市ぶりに驚かされた。
やがてカメラはマンハッタンの街並みへ。アパートや家々が建ち並び、その一角のスラム街。
たむろする若者たちにズームしていく。
私のMY BESTハリウッド・ミュージカルは『サウンド・オブ・ミュージック』。監督は同じロバート・ワイズで、『サウンド~』のあの雄大な開幕の原点を発見。
ロケーションが魅力の『サウンド~』だが、本作もカメラが街に繰り出し、ロケーションを多用。
この点もハリウッド・ミュージカルに於いて先駆けだとか。
ミュージカルとラブストーリーはほぼワンセット。
本作もメインストーリーはラブストーリーだが、ベースとなっているのが『ロミオとジュリエット』。
ハリウッド・ミュージカルに新機軸を築いた本作の主軸が、語り尽くされた古臭い物語。しかし、これが実に旨味となっている。
ポーランド系アメリカ人の不良グループ“ジェット団”と、プエルトリコ系アメリカの不良グループ“シャーク団”。対立する2つの不良グループ。そんな中、ジェット団の青年とシャーク団のリーダーの妹が恋に落ちて…。
愚かな争いの中で犠牲になるピュアで情熱的な恋。後の『タイタニック』も『ロミオとジュリエット』ベースの身分違いの恋。この設定はいつの世でも人々の心に響き、掴んで離さない。
シンプルな分、話は分かり易く、ドラマチックな悲劇性やメッセージも克明に浮かび上がる強みもある。
男女の恋を謳い、ハッピーエンドが多かったかつてのハリウッド・ミュージカル。
人生の素晴らしさを謳い上げるメッセージ性はあったにせよ、もっと真に迫ったテーマやメッセージを持ったミュージカルは本作が初めてだったのでは…?
争う事の愚かさ、
憎しみ、悲しみ、犠牲…。
当時の…いや、この時からNYが抱える移民や人種の問題。
これらを悲恋物語の中に溶け込ませて、訴える。
今も尚私たちの心に響くのだから、当時の人々にはどんなに真新しく見えただろう。
それでいて、かつて栄華を誇ったミュージカルの醍醐味もたっぷり。
恋、青春、友情、ドラマ…躍動する若者たちの姿を体現したダンス。
正直、曲名を聞いてメロディーは浮かばなかった。が、聞けば聞いた事はある。
『トゥナイト』『アメリカ』『マリア』…。
名ナンバーと言うより、もはやクラシックと言っていい。
ナタリー・ウッドの美しさ。
リチャード・ベイマーの端正な青年像。
ジョージ・チャキリスのワイルドな魅力。
リタ・モレノの好助演。
彼らが魅せるアンサンブル熱演。
彼らが魅せる歌やダンスも言うまでもなく。
革新的な撮影、彩る楽曲、それらを纏めたロバート・ワイズの手腕。
普遍的だが、色褪せる事の無いストーリー。
しっかりとしたテーマとメッセージ。クライマックスは本当に胸に響いた。
正真正銘の名画。
永遠に語り継がれる物語(ミュージカル)。
アンチ意見や疑問(何故リメイク…?)、プレッシャーはあって当たり前。
それにスピルバーグが挑む。
どんな“新生ウエスト・サイド物語”が開幕するのか。
批評や見た人の評判はすでに上々だが、自分の目でたっぷり堪能したい。