「砂漠の中で燃えた愛の姿に、身を包まれる」イングリッシュ・ペイシェント 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
砂漠の中で燃えた愛の姿に、身を包まれる
思い出しレビュー2本目。
『イングリッシュ・ペイシェント』。
砂漠に墜落した飛行機から、全身大火傷を負いながらも、一人の男が助け出された。記憶も失っていたが、看護士ハナの手厚い看護で徐々に思い出す。ある人妻との激しい恋を…。
第69回アカデミー作品賞受賞作。
日本では1997年の春に本作、年末に『タイタニック』とオスカー2大ラブ・ロマンス大作が公開され、何と贅沢!
人気もエンタメ度も圧倒的に『タイタニック』だが、どうやら自分は、切なく美しい、大人のラブ・ロマンスの方が好きだ。
まずはこの作品は、壮大なスケールと映像美。
とにかく、砂漠の雄大さ、美しさと言ったら!
砂漠は画になる。これはかの名作『アラビアのロレンス』でもそう。
これまで見た映画の中で、最も美しい映像の作品は?…と問われたら、いつも真っ先に本作が思い浮かぶ。
その映像にかかるガブリエル・ヤードの旋律も素晴らしい。
はっきり言ってしまえば、話は昨今ブームの不倫モノ。
ハンガリー人伯爵ラズロと英国婦人キャサリンの燃え上がる不倫愛。
でもこれを、実に情感たっぷりのラブ・ロマンスに仕上げている。下世話にならずに、故アンソニー・ミンゲラの手腕の賜物だろうか。
こちらは回想形式で、同時にハナと地雷処理を行う工作員の恋も描かれ、単なるスパイスではなく、いい感じで相乗している。
レイフ・ファインズ、クリスティン・スコット=トーマスの美形二人が作品を色立てる。
主演二人は眺めるだけなら、ジュリエット・ビノシュは非常に人間的に魅力的。
また、謎の男ウィレム・デフォーはさすがのクセモノぶり。
結構巧みに交錯しているように見えて、話は割りとシンプル。
不倫の恋は、悲劇に。重傷を負った彼女を、砂漠で見つけた二人だけの洞窟に残し、必ず戻る。
が、行き着いた先でスパイ容疑で捕まり、脱走。何とか協力者を見つけ、やっと彼女が待つ洞窟に戻るが…、すでに遅かった。
彼女から亡骸と共に飛行機に乗るも、撃ち落とされ、生死をさ迷い、今ここに。
しかし自分は、悲劇一辺だけには感じなかった。
確かに不倫は悪いが、文字通り身を焦がした愛。
最期、寄り添い、耳を傾けてくれる人が居て、愛した彼女は単に砂漠に散らず、彼女への想いを胸にしたまま、息を引き取る。
アンハッピー的なハッピーエンド。
遠く広い砂漠の中で育まれた一途な愛の姿に、身を包まれる。