劇場公開日 1990年3月17日

「重要な話題」いまを生きる 大仁得さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 重要な話題

2025年8月12日
PCから投稿

 私は高校の頃から家族の意思に反して医者や弁護士のではなく、アーティスト達に憧れ作家や監督といった不安定な仕事をしたかったのです。なので決まり文句にはもはや親しまれています。天才でなければ無理だとか趣味とした方が賢いとか、全て耳にしました。
 『いまを生きている』はその私が長年考え続ける話題を的確に表します。その何でもできるぞという気持ち、古い考え方に抗うこと、そして自分の能力への疑いと社会の関係、一長一短をバランス良く見せてくれます。
 確かに主人公のように芸術で働きたい人には当然つながりやすい映画です。けれども芸術への愛よりも自分で考えること、生活を存分に楽しむこと、周りの否定に関わらないこと、そういうテーマには誰しもが自分を発見できます。好きな人に話しかけたり仕事を辞めたりすることなど、人生において夢と現実、この二つの価値が常にぶつかります。なのでストーリーの前半は楽で良いことずくめなのですが、後半が訪れると様々な疑問と難点がこの夢をじっくり破ってしまいます。ストーリーの構造はテーマにぴったり合っています。
 その他、とりわけ気に入ったのはもちろん教師のキャラです。文脈なくても彼のシーンを見るだけで何か学べることがあって、面白くて知恵に満ちている師匠のようです。撮影と音楽も素晴らしいと思いました。
 ちょっとした不満なのですが、監督の芸術的な選択は大体ふさわしいでありながら、サイドキャラの演じる能力が恥ずかしく、最も大事なシーンの一つで関係のないスローモーをつけるなんて残念でした。また各女役がばかみたいで恋愛のプロットを省けばよかったです。
 何よりもアメリカの秋と冬の絶景で改めて2000年の前の映画を観たくなりました。

大仁得