「42年前のエブエブ なれどボレロ以外は杜撰」愛と哀しみのボレロ パングロスさんの映画レビュー(感想・評価)
42年前のエブエブ なれどボレロ以外は杜撰
午前十時の映画祭13 B にて。
これも観たかどうか、記憶が定かでない作品。
42年前(1981.10.16日本公開)と言えば、自覚的に映画を観始めた頃だが、まだ映画の文法を読み取る力が不足していて、いわゆる自分なりの「みかた」も確立していない。
勢い、きちんと観て、それを自分のなかに飲み下して、記憶の棚に仕舞う、という作業が満足にできなかったせいで、観たのに全く記憶に残らない、という現象がやたら多かったのだと思う。
とにかく本作のタイトル、『愛と哀しみのボレロ』(原題はLes Uns Et Les Autres - お互いに - )は凡庸でありがちな邦題だと思うが間違いなく諳んじられたし、ジョルジュ・ドンが踊る《ボレロ》は鮮明に記憶している。
ただ、バレエ界の哲人ことモーリス・ベジャール(1927-2007)の振付による、この不朽の名作バレエ《ボレロ》は、本作のために作られたのではなく、20年前の1961年の初演。
日本でも、テレビなどでも盛んに取り上げられ、小生も、確か、ジョルジュ・ドン(1947-92)以外に、ジル・ロマン(1960- )、シルヴィ・ギエム(1965- )、首藤康之(1971- )で観ているはずだ(たいていテレビで。どれかを生で観たような気もするが、それも忘れた)。
ジョルジュ・ドン自体は、他の演目でも観ていたし、《ボレロ》に既視感があるのは当たり前なのだが、今日、本作を観て、他のシーンには何も記憶の手がかりがなくて困った。
大まかなプロット込みで、これだけ本作のことを認識しているのだから、たぶん観たのだとは思うのだが‥‥
さて、本作の概要、あらすじ等は、Wikipedia に充分解説されているので、詳細は省略する。
要は、冒頭示されるように、
◇モスクワはボリショイのバレリーナたるタチアナ・イトヴィッチ(リタ・ポールブルード)、
◇パリのキャバレー付きのヴァイオリニストたるアンヌ(ニコール・ガルシア)とピアニストたるシモン(ロベール・オッセン)のマイヤー夫妻、
◇ベルリンを活動拠点とするクラシックピアニストたるカール・クレーマー(ダニエル・オルブリフスキー)、
◇ニューヨークを拠点にジャズバンドを率いるジャック・グレン(ジェームズ・カーン)
の4組を起点とする、1930年代から1981年に至るファミリー大河年代記である。
ヤマ場としては、
◇発端のすぐあとの大戦、
◇それぞれの2代目が台頭する1960年代、
◇そして3台目の時代が幕を開け、プロローグで小出しした、エッフェル塔前で華々しく執り行われる、赤十字&ユニセフ主催のチャリティー・コンサート=ドンが踊る《ボレロ》のステージに4組の子孫たちが結集してクライマックスとなる、
といった運びである。
ラストのクライマックスまでは、4組の家族は、多少のニアミスはあっても深くは関係せず、それぞれ並行的に物語が進展する。
Wikipedia によれば、シナリオ技法的に言う「より縄形式」の代表例であるらしい。
まぁ、最近の例になぞらえるならば、ある種のマルチバース、42年前のエブエブだと見立てられなくもない。
でも、観ると、全然上手くないんだよなぁ。
何だか、最初、ナレーター(ルルーシュ監督本人?)が、
「今から始まりまするは全て実在の人物にて、演じまするは誰々‥」
みたいな前口上があって、エピローグでも、出演者のカーテンコールみたいなのがあって‥‥
まぁ演劇になぞらえてるんでしょうが、メタ的な作りを装おうとしてるけど、特段、効果的だったとは思えんし。
今回再見(?)しようと思ったのは、カラヤンが出てるって情報をどっかで見たからで。
で、カラヤン、いつ出て来るかと思いきや、全然出て来ないし(笑)。
要は、実在の人物云々は、芝居の中のセリフで、それ自体はフィクションだった、ってことで。
それに、2代目ないし3代目を同一俳優が演じたりするので、なおさらエブエブ感を増しているのだけれど、カラヤンがモデルという(ピアニスト転向)指揮者のカール・クレーマーはずっと同一人物だとか、統一感がなくて、観ていて混乱するばかりでしたな。
ヒトラーによるユダヤ人虐殺がドラマ全体のトラウマとして作用している構造なんだけど、被害者側(アンヌ、シモン→ロベール)の話も上手いとは言えないし、ヒトラーへの加担を問題視されるカールの件も中途半端だし、ね。
大戦を扱った大河ドラマとしては、ダメダメじゃないかな。
それに呆れたのが、カラヤンをモデルにしたカールの指揮ぶりが無茶苦茶。
ちょっと酷すぎ。
今期のTBSドラマ『さよならマエストロ』の西島秀俊の方が百倍まし。
ネトフリ映画でバーンスタインの指揮を再現した『マエストロ』(2024.2.11映画.com パングロス初投稿)のクーパーの爪の垢でも煎じて飲んで欲しい、って心底思いました。
で、ダメだ、こりゃ、
で、2.3 点
ってなところですが、フィナーレのドンの《ボレロ》は流石に神の領域で、こればっかしは本物で、感動の震えを禁じ得なかったという‥‥
で、+ 0.3 の加点にて、2.6 点とします。
あっ、ミッシェル・ルグランの音楽と、それに載せた何やようわからんコンテンポラリー群舞(最初、防護服で除染みたいなことしてるヤツ)も悪くなかったですよ。
でも、その分は基礎点のうち、ってことで。
*Filmarks投稿を一部省略して投稿
コメントありがとうございます。
マルチバースは現在の映画ならではの考察ですねぇ、昔から別次元のお話っていう描写はあったのかもしれませんが。戦前・戦中・戦後、実は同じ時間軸にあったんだよと感じられてぐっと来ました。
共感ありがとうございます。
初めて観たのはTVのゴールデン映画劇場だったと思いますが、長くて眠くてどこが高評価? と思いました。この監督さんは大河ドラマのストーリー構築は上手くないと思います、ただラストの“ボレロ”は曲の構成も有って一気に持っていかれますね。