「官能的な音楽が心を揺さぶる。懐かしい映画音楽全盛期の作品」愛と哀しみのボレロ あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
官能的な音楽が心を揺さぶる。懐かしい映画音楽全盛期の作品
原題の「Les uns et les autres」は難しい。全く関係のない邦題をつけてしまうはずだ。「自分は自分、ひとはひと」という慣用句でもあるし、反対に「ご一緒に」という意味に使われたりするようで文脈によって異なってくる。でもパリ、ベルリン、モスクワ、ニューヨークの4都市が出てくるものの、主な舞台はフランスで、フランス人が自分たちを中心としてパリにやってくる他の国の人々と一緒に芸術文化を成熟させていく話にもみえる。で、私の原題訳は「私たちと、あの人たち」
大河ドラマである。モスクワのバレリーナ、ベルリンの指揮者、パリのバイオリン奏者、ニューヨークのバンドリーダーの4人が主な登場人物でその配偶者、子供などが入り混じりった三世代、40年以上に渡る大長編。
これをいちいちセリフや状況説明で繋いでいくのは大変だし精緻な脚本と突出した演出力を要する。クロード・ルルーシュはそこまで構成力がある監督ではない。
大長編の成立を可能にしたのはひとえに音楽の力である。ラヴェルの「ボレロ」はもちろん、その他の音楽もこの映画ではとても官能的である。
それが我々の心の奥底を揺さぶり共鳴化させることによりドラマに対する説得力を高めている。
音楽の官能性を上手く活用していたのは「男と女」と同様である。
3時間の作品なので全てがうまく行っているわけではない。アルジェリアからの帰還兵がたびたび出てくるあたりからドラマは冗長になり音楽の出番も少なくなるためちょっと退屈だった。
この映画はミシェル・ルグランとフランシス・レイによる「映画音楽」映画であるといっても良いかもしれない。「ボヘミアン・ラプソディ」や「ホイットニー・ヒューストンI wanna dance sombody」のようないわゆる音楽映画とはちょっと異なる気がする。上手く説明できないが。
ミシェル・ルグランとフランシス・レイは既に亡くなった。「海の上のピアニスト」のレビューでも書いたけど、エンリオ・モリコーネとバート・バカラックも既に亡い。映画音楽の時代は既に終わったのかもしれない。